グラファイトデザイン社がカーボン繊維に関する高い技術力を活かして作り上げた名車、それがグラファイトデザインのメテオスピードです。
その乗り味は、他のカーボンフレームバイクとは一味違った独特なものでした。
数々のレースで入賞記録もあるという実力派ながら、グラファイトデザイン社の撤退で幻の名品となってしまったのが非常に惜しまれます。
今回は、そんなグラファイトデザインのメテオスピードについてご紹介していきます。
グラファイトデザインはこんなメーカー!
グラファイトデザインは、埼玉県に本社を置く、カーボン製ゴルフシャフト(ゴルフクラブの柄の部分)のメーカーです。
あの石川遼選手を始め、ゴルフのツアープロの使用率ではNo.1という業界でのトップメーカーです。
そのグラファイトデザインが、ゴルフシャフトで培ったカーボン繊維加工の技術を活かして、スポーツバイク事業に参入したのは2007年のことでした。
一時は、新城幸也選手(現ランブレ・メリダ)も所属していたプロチーム、エキップアサダをサポートしていたこともあります。
また、2008年にはツール・ド・リムザンのステージ優勝や、ツール・ド・おきなわの総合優勝といった輝かしい実績をあげたこともあるのです。
さらに、2009年には機材の供給だけにとどまらず、「EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン」チームとして、ツール・ド・北海道や熊本国際ロードレースで圧倒的な強さを見せつける活躍ぶりでした。
こういった、レースでの実績をフィードバックして市販化されたカーボンフレームセットが、メテオスピードです。
グラファイトデザインのユニークなサービスの一つとして挙げられる「GD COLORS」というカラーオーダーシステム。
これは、自動車の塗装に用いられるカラーコードを使用して、自動車と同じ色でフレームを塗装できるというものです。
自分の愛車(4輪車)や、フェラーリやメルセデスといった憧れの名車と同じ塗装を、自転車にも再現できたのは、嬉しいサービスでした。
グラファイトデザインのラインナップは?
グラファイトデザインがスポーツバイク市場に参入した2009年、当初のラインナップは、メテオスピードとメテオランチという2種類のカーボンフレームセットでした。
このメテオシリーズは同社のフラッグシップとしての役割もありました。
また、その後に、基本設計は同じでアルミとカーボンを組み合わせ、よりリーズナブルな価格を実現した廉価版のメテオハイブリッドシリーズもラインナップに加わりました。
そして、ハイスペックなプロ用の機材であるメテオシリーズに対して、初中級グレードのカーボンフレームセットとしてリリースされたのが「ザニア」です。
変わったネーミングですが、「女神の翼」を意味する「ザニア」という星の名前からとられているそうです。
それに対して、無機質なネーミングが逆にレーシーな印象を与えるのが「T800」です。
2013年にデビューしたプロスペックのロードバイクで、カーボン素材に航空機に使用される「東レTORAYCA」を採用しています。
といっても、グラファイトデザインの作るカーボンフレームの特徴である、しなやかさは健在です。
高剛性と弾性を高い次元でバランスしたことによる軽さとパワーロスの少なさで、他車のカーボンロードバイクと一味違った仕上がりになっています。
メテオスピードの最大の特徴!「GDRオリジナルラグシステム」
メテオスピード最大の特徴は、グラファイトデザインが「GDRオリジナルラグシステム」と呼ぶ工法です。
フレームのメインになるのは、ヘッドチューブからBBまでを一体化した「スーパーコア」と呼ばれる部分です。
それに、トップチューブ、シートチューブ、シートステー、左右チェーンステーを加えた6つのパイプで構成されています。
また、真円でほっそりしたパイプをメインで使用していることから、おなじカーボンでもカーボンモノコックのようないかつさはなく、クラシックなクロモリフレームを思わせるすっきりしたルックスが印象的です。
さらに、グラファイトデザインが、自転車用フレームを開発するのにあたって掲げたテーマが「しなり」です。
カーボンフレームといえば、一般的には軽量・高剛性が最大のアピールポイントです。
しかし、グラファイトデザインでは、フレームがいわばムチのようにしなることで、その反発力を推進力に変えていくというコンセプトをとっています。
これは、ゴルフシャフトがしなることにより生じる反発力でボールを遠くまで飛ばすという、長年ゴルフクラブで培ってきた技術をフィードバックしたものといえるでしょう。
そして、このフレームの適切なしなりを実現するために、各部で最適な剛性を確保したパイプをラグ接着する、という方法を採用しているのです。
しなやかな乗り味が印象的なメテオスピード
グラファイトデザインが、フレームにこめた「しなり」は、どのように乗り味に反映されているのでしょうか。
グラファイトデザインのメテオスピードの実際の走りをインプレでチェックしていきましょう。
実際に乗った方のインプレで最も印象的だったのは、ペダルを踏み込んだ際、後ろから押されるような不思議な感覚がある、というものです。
BB部分もメインフレームと一体成型である上、BB自体の規格も当時の最新の技術で、ペダリングした際の剛性感は非常に高いのです。
その一方で、シートステー及びチェーンステーには弾性があることから、踏み込んだ力が反発力により増幅されてホイールの回転力につながる、そんなイメージです。
カーボンフレームというよりもクロモリフレームのような乗り味で、乗り手には非常にマイルドな印象があるけれど、実際にはトルクの伝達力は非常に高いという嬉しいギャップです。
それが「後ろから押されるような」という印象につながっているのでしょう。
一般的にレース用ロードバイクといえば、ソリッドな乗り味やクイックなハンドリングというイメージがあります。
しかし、メテオスピードはそういったバイクとは一線を画し、穏やかな反応性をもっているようですね。
グラファイトデザイン・メテオスピードとメテオランチの違いは?
グラファイトデザインでは、メテオスピードの他にメテオランチというカーボンモノコックフレームも同時にラインナップしていました。
グラファイトデザインでは、2種類のカーボンフレームを用意した理由について、メテオスピードは高速レース用、メテオランチはヒルクライム用である、と説明しています。
メテオランチのランチ(Launch)とは、ロケットなどの打ち上げを意味する単語で、強いトルクをかけて、ぐいぐい坂を上っていくイメージです。
メテオスピードに比べるとしなやかさよりも高剛性を重視していることから、より一般的なイメージに近いカーボンフレームといえるかもしれません。
また、ヒルクライムを意識したため、ディメンションも細かく差別化が図られています。
トップチューブは、若干アップライド気味のポジションになるヒルクライマーにあわせて、ヘッドの長さをメテオスピードに比べて10㎜長くしています。
そして、ダンシングで有利なように、スローピングの度合いもメテオランチの方が20㎜ほど大きく、メテオスピードの方がよりホリゾンタルに近いデザインとなっています。
なお、重量についてはモノコックを採用するメテオランチの方が軽量に仕上がっており、その意味でもヒルクライムに向いたフレームといえるでしょう。
グラファイトデザインの撤退
残念ながら、現在はメテオスピードを購入することが難しくなってしまいました。
始めに書きましたが、グラファイトデザイン社が2016年2月をもって、自転車事業から撤退してしまったためです。
撤退の理由は、収益性の悪化で将来的な改善の見込みも立たなかったということです。
日本のものづくりを体現したような、高い技術力に支えられた繊細なカーボンフレームだったので、撤退はとても悔やまれる事件でした。
非常に高価な製品ではあったのですが、それでも採算がとれないほど、コストがかけられたフレームだったということなのかもしれません。
もし、メテオスピードを購入したいと思ったら、販売店でのストック品か、あるいは中古市場に出回るのを待つしか方法はありません。
なお、現在販売されている製品は2019年2月28日まで同社において、修理やアフターサービス、補修部品の供給などの対応を行っているので、当面の間は安心して乗り続けていけるでしょう。
メテオスピードを入手できたらラッキー
グラファイトデザインのメテオスピードが、いかに特別なカーボンバイクであったか、ご理解いただけたでしょうか。
一般的なカーボンバイクの、わかりやすい高剛性なイメージとは異なりますが、独特のしなやかな乗り味を絶賛する声も多く聞かれました。
その意味では、非常に玄人受けする1台だったのかもしれません。
幾多のレースでもその実力の高さは証明されていたにもかかわらず、グラファイトデザイン社の撤退で、いわば幻の名車となってしまったのは残念です。