PINARELLOは創業60年を超える老舗ブランドでありながら、常に革新を求めバージョンアップを繰り返してきたブランドです。
そのため、ロードバイクには時代を彩る代表作が多いのですが、今回はその中から「FP1」を振り返ります。
2000年代にベストセラーとなった「FP」シリーズのアルミフレーム車で、現在まで続く技術も多く導入されたモデルでした。
PINARELLOは世界初の試みが多い
PINARELLOは創業者のジョバンニ・ピナレロがプロのロードレーサーだったこともあり、世界のロードレースと共に歩んできたブランドです。
創業当初からプロチームにバイクを提供し、三大ツールを始め、オリンピックの金メダリストにも供給されていました。
1988年にPINARELLOに乗った選手が初めてツール・ド・フランスを制したのを皮切りに、ミゲール・インデュラインの5連覇などがあった1990年代、一躍世界にその名をとどろかせる存在となりました。
その後は、世界のビッグレースをPINARELLO抜きでは語れないとまで評されるようになり、現在も世界をけん引するレーシングブランドです。
また、「世界初」がPINARELLOの十八番であり、今では一般的となった「インテグラルヘッド」や、左右非対称の「アシンメトリックデザイン」は、元々PINARELLOが世界に先駆けて発表した技術です。
そして、まだフルカーボンフレームが普及していなかった時代に、シートステイをカーボン製にしたアルミフレーム「カーボンバック」を世界で初めて開発したのもPINARELLOです。
今回取り上げる「FP1」は、そのカーボンバックになります。
PINARELLO・FP1を振り返るのに欠かせないカーボンバックの歴史
PINARELLOのFP1は2011年シーズンまでラインアップされていたモデルですが、カーボンバックのルーツは、1988年に発表された初代「PRINCE(プリンス)」になります。
前項でも触れましたが、まだフルカーボンが普及に至る前段階であり、その発想はあまりにも衝撃的で、爆発的なヒットとなります。
需要が多くなったこともあり、多くのメーカーがこれに追随してカーボンバックモデルを製造したため、2000年代初頭のロードバイク界は、一大カーボンバックブームになったと聞いています。
その後、フルカーボンの時代が到来し、多くのメーカー、ブランドがカーボンに移行していく中、PINARELLOは継続して新しいモデルを投入していきます。
プリンスはPINARELLOの象徴でもある「ONDA」のフロントフォークをまとった「プリンスSL」となり、多くのライダーの勝利に貢献し続けました。
そして、これも往年の名作と言われる「MARVEL(マーベル)」も初代はカーボンバックであり、2000年代後半を支えた一台です。
PINARELLO・FP1は2010年代初頭のカーボンバック継承モデル
前項に引き続きカーボンバックの歴史を続けますが、2000年代後半から2010年代初頭にかけて、PINARELLOもついにフルカーボンフレームをフラッグシップモデルとし、金属フレームがレースを去ります。
市場モデルではプリンスをカーボンフレーム化(プリンスカーボン)したあと、2010年にドグマもカーボン化して、こちらもカーボン中心のラインナップとなります。
その中でミドル~エントリーグレードを支えたのが「FP」シリーズです。
プリンスカーボンの技術を踏襲しながら、素材や技術に工夫をして価格を抑えた「FP3」は人気を博し、今でもベストセラーモデルではないかとの憶測も飛び交うほどです。
そして、カーボンのエントリーグレードとなった「FP2」は、20万円台前半という価格設定で、PINARELLOのユーザー層の裾野を広げた存在でした。
さらに、PINARELLOはこのFPシリーズにカーボンバックを残し、「FP1」が歴史の継承モデルとなります。
FP1は2012年にアシンメトリックデザインが導入された「FP UNO」となり、2014年にはFPの冠がPINARELLOから無くなり、カーボンバックは「NEOR(ネオール)」というモデルになります。
この後ネオールは、カーボンバック誕生からちょうど20年目となる2018年モデルまで名を連ねますが、2019モデルに名前はなく、歴史にピリオドを打つことになりそうです。
プロライダーをもうならせたPINARELLO・FP1の素晴らしさ
PINARELLO・FP1はカーボンバックの歴史を継承するモデルであったわけですが、レースにも投入されています。
現在も現役選手として活躍する「アレハンドロ・バルベルデ」などは、このFP1の乗り味と、ハンドリングの素晴らしさを絶賛したというエピソードも残っています。
その乗り味やハンドリングの確かさを支えていたのが、ピナレロの象徴である「ONDA」のフロントフォークとシートステイです。
所どころに曲げ加工が施され、振動をいなしながら衝撃を吸収してくれる作りになっていました。
また、採用されたカーボンが上級モデルと同じ「30HM3K」という素材で、高弾性でありながらしなやかで剛性も適度なことから、バルベルデをして、快適な乗り心地と言わしめたのは納得がいきます。
そして、当時の試乗インプレには、ハンドルの切れが抑えられていて、直進安定性が高いという評価もされており、入門モデルとしての味付けもしっかりされていたことが分かります。
カーボン車が普及した時代にFP1が人気を博していた理由
歴史のところでも少し触れましたが、FP1は既に多くのメーカー、ブランドがフルカーボンフレームを主流とし始めた時代にラインナップされていたものです。
しかも、カーボン車がプロ仕様だけではなく、ミドルグレードにも多くラインナップされるようになってきただけに、カーボンバックは本当に少なくなっていました。
しかし、当時のテストライダーなどの試乗インプレでは、アルミらしいシャキッとした反応のよさと、カーボンのシートステイがもたらしてくれる、タメの利いたメリハリのある走行感が同居しているバイクは貴重という意見も見られました。
また、フルカーボンに力を入れる一方で、力が入らなかったのか、また、差別化を図り過ぎたのか、アルミフレームのレベルに疑問を感じる時期でもありました。
その中でPINARELLOはアルミフレームの重要性を唱え続け、一切の妥協なくカーボンバックのアルミ車を作り続けてきましたので、他メーカーとの比較でも優位に立ち、人気が継続したと考えられます。
2019モデルのPINARELLOのアルミフレーム車
ここまでPINARELLO・FP1を振り返っていますが、お伝えしている通り唯一のカーボンバックの生き残りであった「ネオール」が、2018年を最後にPINARELLOのラインナップから外れることになります。
2018年11月時点の情報を元に販売状況を見ますと、ネオールの在庫が確認できるのも数店舗になっている状態です。
また、中古品として、オークションサイトやフリマサイトに出品されていることも少なくありません。
今は昔と比べ中古ロードバイクの市場も確立され、しっかりと整備された質のよいものも多くなっていますので、確認してみてもいいでしょう。
さて、今後ですがPINARELLOでアルミフレームを希望する場合は、選択肢が「PRIMA(プリマ)」一択になります。
2015年のデビュー以来2019モデルで5シーズン目、ほとんどモデルチェンジをせず継続しているのが人気のある証と言えるでしょう。
今では珍しくなったアルミフレームのホリゾンタルスタイルに、ONDAのフロントフォークはFP1と同じ形状のものが採用されていますので、プロも認めたハンドリングが継承されています。
しかも、2019モデルは2018年に比べ2万円以上価格が下がり、よりお得感が出ましたのでおすすめのモデルになります。
カーボンバックの伝統を守った「FP1」
今回は、PINARELLOのカーボンバック「FP1」を振り返りました。
カーボン車が全盛になってから発売されたモデルのため、余計にその奮闘ぶりを評価したい存在です。
ついにPINARELLOからもカーボンバックが退きますが、どこかで見掛けたらぜひ検討してみてください。