スペシャライズドは今でこそロードバイクが主流になっていますが、世界にその名を知らしめたのはMTBでした。
世界初の量産型MTB「スタンプジャンパー」は爆発的なヒットとなり、日本の企業がOEM生産をしていたこともあり、日本のMTB界に大きな影響を与えました。
そんなスペシャライズドのMTBに2018年より、クロスカントリーの新機種「チゼル」がラインナップされましたので、今回は取り上げてみます。
スペシャライズドの2018年のニューモデルMTB「チゼル」
今回のテーマであるスペシャライズドの「Chisel (チゼル)」は、クロスカントリーというカテゴリーに属するMTBです。
MTBの中ではスピードを重視するレース向けであり、大口径のホイールでリアサスペンションがなく、フロントサスのトラベル量(沈み量)も少ないのが特徴です。
また、ダウンヒルの要素に加え、登り坂を速く走ることも想定されているので、車体が非常に軽量です。
チゼルの2018モデルもグレード別に違いますが、下のグレードである「Comp」で12㎏(実測値)を切っているようなので、クロスバイク並みの重量になっています。
さらには、ヘッドアングルが他のスポーツバイクに比べ穏やかなMTBですが、クロスカントリーは前傾姿勢も意識しているのでMTBにしては急角度になっています。
チゼルにはサスペンションの動きを止めることができる「ロックアウト」機能も付いていますので、舗装路をスピードを出して走ることも不得意ではありません。
スペシャライズドのチゼル2018モデルは「29er」
スペシャライズドの「チゼル」は、2018年からラインナップに加わったアルミMTBの新星です。
グレードは「Expert」「Comp」の2種類で、価格は10万円台後半になります。
アルミフレームのMTB全体では中の下あたりのグレードですが、クロスカントリーでは上位モデルです。
そして、MTBの中では最も大きいホイールサイズである29インチを採用しています。
ロードバイクの700cとほぼ同じ口径で、ひと漕ぎでより長い距離を稼げる径の大きなホイールが採用されています。
29インチのMTBは通称「29er(ツーナイナー)」と呼ばれ、スピード系MTBの象徴として一世を風靡しました。
今でこそ小回りが効いて扱いやすいということから27.5インチが主流となっていますが、クロスカントリーレースでは今でもほぼ29erが使用されています。
また、クロスバイクが普及する前は、街乗りのスポーツバイクといえば29erと言われた時代もあります。
後述しますが、チゼルなどは正に街乗りでも使用できるスペックであり、29erの用途の広さを物語っています。
スペシャライズドのチゼルのカギは「DSW」
スペシャライズドのチゼル2018年モデルはアルミフレームですが、近年アメリカのメーカーを中心にアルミが飛躍的にレベルを上げています。
特に成型技術の向上は目覚ましいものがあり、カーボンフレームかと間違えるくらいにきれいな流線形を描いています。
チゼルに用いられている「DSW(ダルージオ・スマート・ウェルド)」という技術は、アルミにありがちなチューブのつなぎ目に残る溶接痕はほとんどありません。
アルミフレームはチューブのつなぎ目に応力が掛かるので、しなってしまうものです。
そのために、つなぎ目部分を分厚くする必要があり、どうしても重量が嵩んでしまう傾向にありました。
しかし、DSWは従来のつなぎ目とは離れた、応力の低い箇所でチューブを結合しているので、剛性を保ちながらつなぎ目は薄くすることに成功しています。
これは、アルミロードバイクの「アレー」にも投入されている技術であり、スペシャライズドのアルミ再興への思いが強く感じ取れます。
スペシャライズドのチゼルが街乗りに向く理由
スペシャライズドのチゼル2018年モデルは、クロスカントリー競技を目指す方にはもちろんですが、筆者個人的には、普段使い車としてもおすすめしたいと考えています。
先述通り、クロスカントリーのMTBの特徴は、山を得意とするカテゴリーとは明らかに一線を画すものです。
例えば、チゼルのサスペンションのトラベル量は90~100㎜ですが、これは大きな岩や木の根っこなどを超えるには少し頼りないかもしれません。
しかし、このトラベル量は車道と歩道の段差や、未舗装路の細かい段差では最適な稼働量です。
また、舗装路で高速走行時は、サスペンションがあるとフワフワして力が逃げてしまいます。
しかし、チゼルはサスペンションの機能を止められますので、舗装路のスピード走行にも対応できます。
なおかつ、29インチのタイヤはクロスバイクやロードバイクと同じ大きさで、スピードが担保されているのも舗装路では心強いです。
加えて、天候や路面状況に左右されないディスクブレーキ搭載なので、雨でも休めない通勤・通学向きとも言えます。
チゼルを街乗り仕様にカスタムするなら
前項ではスペシャライズドのチゼル2018年モデルが、普段使いの街乗り車としても優れているとお話しました。
しかし、クロスカントリーは登り坂仕様のところがありますので、ギアが軽すぎるのは否めません。
特に「Expert」はフロントがシングルで30Tという軽いギアのため、マイナスのギア比まで用意されています。
この構成ですと常にペダルを忙しく回転させることになりますので、激坂を行くクロスカントリー競技ではもちろん必要なことですが、さすがに街乗りとしては構成が軽すぎます。
したがって、街乗りメインで乗りたい場合は、ギアの交換も視野に入れた方がよいでしょう。
また、タイヤもMTBとしては標準の2.1~2.3インチですが、舗装路のスピードを意識するならさすがに太過ぎます。
さらに、舗装路では「ブロックタイヤ」である必要性もあまりないので、タイヤもカスタムを考えるパーツになります。
これは用途によるのですが、チゼルほど街乗りに向いたMTBを筆者はあまり見たことがないので、このようなカスタムをしてより普段使い仕様に仕上げたい、とも考えています。
2018年クロスバイクがスピード重視になったことでさらにチゼルに注目が集まる
近年はクロスバイクがスピード化を図る傾向にあり、MTBの延長線上というイメージは薄れてきています。
スペシャライズドでも2018年より、フィットネスやダイエット、サイクリングなどに向くスポーティなタイプである「シラス」に集約されました。
ロードバイクに比べれば悪路も行けますが、どちらかというと平坦の舗装路向きの仕様になっています。
そうなってくると、道中に坂が多い乗り方や、山にも行ってみたい希望がある場合に、シラスでは少し物足りない部分があるのも確かです。
そこで、チゼルを選択肢に入れてみてはどうかという話になります。
チゼルが街乗り向きというのはここまでお話してきた通りですが、クロスバイクと同じくらいの重量ですし、安定感などはむしろチゼルの方が上です。
段差などは全く気にせずに走れますので、自分が普段走っている道路がタフな路面であるのならますますチゼルの方が優秀に思えます。
シラスとはかなり価格が違うので単純な比較は難しいですが、本格的に悪路ににも行きながら普段使いもするという方は、チゼルを考えてみてもよいでしょう。
チゼルは街で乗ってみたい
今回はスペシャライズドの新MTB「チゼル」のお話をしました。
近年のアルミフレームのレベルアップを実感できる「DSW」の技術に、クロスカントリーの形状が加わりとても軽量に仕上がっています。
もちろん、MTBの本分である悪路をこなすのは申し分ないですが、ぜひ街乗りとしてイメージして頂きたい一台です。