PINARELLOは創業60年以上の老舗ブランドですが、常に新しいものを求めて新陳代謝を繰り返しているので、スタイルやフォルムもどんどん変化していきます。
そのため、ニューモデルや名称変更も数知れず、定期的に歴史を振り返って確認してみないと把握するのが大変です。
そこで今回は、PINARELLOのミドルグレードを支えた「FP3」を振り返ってみます。
PINARELLOがカーボンフレームに着手するまでの経緯
PINARELLOのフラッグシップモデルとして現在も君臨する「DOGMA(ドグマ)」は、世界で初めて量産型のマグネシウム合金製のフレームでデビューしました。
金属としては最高の素材と言われながら、量産が難しかったマグネシウムを量産に導いたわけなので、「DOGMA=独断、独善的」のような意味の通り、唯一無二の存在としてアイデンティティーを死守しました。
そのため、各メーカーがフラッグシップモデルをカーボン化していく中で、ピナレロはDOGMAをカーボン化しませんでした。
そんな経緯の中、当時はDOGMAに次ぐグレードであった「PRINCE(プリンス)」をカーボン化することで、周囲とのバランスを図ります。
しかし、さすがはPINARELLOというところで、このPRINCEが世界のビッグレースで次々と勝利を挙げ、2008、2009年には2年連続でレースバイクオブザイヤーを獲得するなど、高い技術を見せつける結果となります。
そのPRINCEの技術を踏襲しながら、素材や加工方法、付属パーツなどを見直したのが今回の主役である「FP3」です。
PINARELLO・FP3の素材と形状
前項でお伝えしたように、PINARELLOの「FP3」は、PRINCEがピナレロ初のフルカーボンのフラッグシップモデルになったタイミングで、ミドルグレードの位置付けでデビューしました。
PRINCEが「50HM3K」という高弾性で軽量なカーボン素材を使用していましたが、FP3は少ししなやかで柔らかめの「30HM12K」という素材が採用されました。
2010年にDOGMAもカーボン化されますが、それ以来上位モデルは他のメーカーに先駆けるかのように、高弾性でガチガチに硬いフレームが続きますので、硬さと衝撃吸収性のバランスに優れた30HM12Kが、この後も長く支持され続けます。
また、当時はカーボン素材の詳細を明かさないブランドが多い中で、供給元(日本の東レ)から素材の弾性まで明らかにするピナレロの姿勢が、高評価されていたと記憶しています。
上記のようにFP3は素材こそ違いますが、設計は正にPRINCE譲りでした。
ヘッドチューブは上下異形の「テーパーヘッド」、左右非対称のチェーンステイ、リアのブレーキケーブルをチューブに内蔵するなど、ミドルグレードとしてはあり得ないほど最新鋭の技術が投入されています。
PINARELLO・FP3のインプレ情報
FP3はPINARELLOがカーボンに完全移行する初期段階で生まれたモデルで、しかもミドルグレードのため、どちらかと言えばアマチュアライダーをメインターゲットとしていました。
それだけに、多くのライダーに乗ってもらいたいという意思がくみ取れるバイクでした。
FP3は先述の通り、当時のフラッグシップモデルPRINCEの直系ですから、レースモデルとして認識されていました。
しかし、弾性が抑えられている点や、ピナレロの象徴でもある「ONDA(オンダ)」の技術もあり、安定感や扱いやすさという面が強調されています。
実際に当時の販売店のブログなどを確認してみると、長距離やグランフォンド(自転車を使ったマラソンのようなイベント)向けという紹介がされています。
また、初心者が手を離して乗っても不安を感じさせないくらいの、直進安定性があるという報告も見られ、レースモデルとしてはかなりピーキーさを抑えた仕上がりになっていることが伺えます。
PINARELLO・FP3の概要
FP3は2009年モデルからラインナップに加わり、2011年まで販売されました。
詳しい仕様は明確ではないのですが、断片的な情報を繋げますと、最初の2シーズンはシマノ・アルテグラや105、カンパニョーロ・アテナをメインコンポとした完成車での展開。
そして、最終2011シーズンは、フレームセットのみだったようです。
完成車の価格はコンポのグレード別に32万円~40万円前後、フレームセットは20万円前半というところです。
これまでお伝えしてきた、扱いやすさや安定感という優しい味付けや、この価格設定が受け入れられ、FP3は当時のベストセラーになったのです。
特に20万円前半のフレームセットは他のメーカーならいざ知らず、PINARELLOでは考えられなかっただけに、いかにFP3の人気が高く、多くの需要があった証明ではないかと考えられます。
また、FPシリーズはこの頃FP3に加え、カーボンの弾性をさらに下げて、フレームにしなやかさを増した「FP2」と、PINARELLO伝統のカーボンバックのアルミ車「FP1」がラインナップされていました。
FP3廃盤後のカーボンミドルグレードの変遷
前項でお伝えした通り、FP3は2011年までの展開でしたが、新陳代謝の激しいPINARELLOらしく、FP3廃盤後のカーボンのミドルグレードは、モデルチェンジの連続になります。
2011年モデルにはFP3を基礎にした進化モデル、「QUATTRO Carbon」がミドルグレードに登場しています。
これは、ついにカーボン化となったDOGMA最大のハイライト、左右非対称の「アシンメトリックデザイン」を導入したモデルです。
翌2012年モデルからは、両者を統一したような「FP QUATTRO」という名称になり、新しい形状のONDAフォークや、テーパーヘッドの径の拡大などの進化を遂げました。
そして、2014年に「FP」モデルが全て名称変更されるのに伴い、かつての名作「MARVEL(マーベル)」が復活、FP QUATTROの後継機となります。
MARVELにはテールフィンを持つ「ONDA 2V」のフロントフォークや、シマノ「Di2」などの電動式コンポにもワイヤーの受け部分の交換だけで対応可能な、「THINK 2」の技術が新たに採用されています。
FP3から続く伝統様式は「RAZHA(ラザ)」へと受け継がれている
前項までは、PINARELLOのカーボンフレーム創世記を支えた、ミドルグレードの推移についてお伝えしました。
FP3からスタートした創世記のミドルグレードはMARVELに受け継がれましたが、MARVELも同じ金型で製造されたエントリーグレード「RAZHA(ラザ)」の登場により、2015年をもってわずか2シーズンで再び姿を消します。
また、先々代のフラッグシップ「DOGMA 65.1」の金型をそのまま使用した4代目PRINCEも、伝統的な様式を継ぐモデルでしたが、2019モデルではフルモデルチェンジとなり、それまでの面影はどこにもない、全くの別物に生まれ変わっています。
そのため、ONDA 2VやTHINK2などの伝統様式をまとっているのは、現存する中ではRAZHAのみとなりました。
カーボン素材はFP3の時代とは特性が違うものを採用しているので、一概に比較はできませんが、強度が上がったのは確かで、扱いやすさが向上したモデルとなります。
これからも所どころで語られる存在
今回は、PINARELLOのカーボン創世記を支えたFP3を振り返ってみました。
カーボン素材やフレーム形状にやさしめの味付けをして、その段階ではまだ未知だったPINARELLOのカーボンレーシングバイクの裾野を広げる役目を担い、それを見事に遂行してべストセラーとなりました。
今もその思想や技術が息づいているモデルもあり、これからも長く歴史に名を残す存在になるでしょう。