今回ご紹介するANCHORの「RNC3 EX」は、クロモリフレームの完成車であり、一番下のグレードになります。
クロモリというだけで今の時代ではレア感があるところ、筆者は一番下のグレードをおすすめするのですが、その理由についてお伝えします。
また、ANCHORはクロモリにこだわりがありますので、それについてもお伝えしていきます。
ロードバイクのフレーム素材の歴史
ロードバイクのフレーム素材は、時代と共に主流が変遷してきています。
現在はプロロードレースを中心に完全にカーボンが主流ですが、歴史はまだ浅く主流と呼べる状態になったのはほんの10数年前です。
それまでは金属フレームが当たり前の時代であり、特に最初に主流となったのがクロモリです。
そのため、ANCHORもそうですが、歴史のあるメーカーやブランドは当時の名残りもあり、今でもクロモリロードを作り続けているところが多くなります。
クロモリは鉄にクロムやモリブデンといった物質を調合し、強度や耐久性を持たせた合金で、鋼の一種になります。
カーボンはおろかアルミを自転車の素材にするという発想も無かった時代には、軽量で耐久性のあるクロモリが主流になるのは当然の流れでもありました。
しかし、徐々に弱点も見え始め、ロードバイクではアルミにシフトしていきます。
現在は上記でもお伝えしましたが、ヨーロッパや日本のメーカーはまだクロモリ車を扱っているほうですが、アメリカや台湾メーカーはほぼ扱っていません。
そんなレアな扱いになっている中で、ANCHORは約25年前に確立したこだわりの製法で、今でも「RNC3 EX」のようなクロモリ車を製造し続けています。
ANCHOR・RNC3 EXを支える「ネオコット」
ご紹介が遅れましたが、「ANCHOR」はブリヂストンの系列会社「ブリヂストンサイクル」のスポーツバイクブランドです。
ANCHORがブランド化された年代は定かではありませんが、ブリヂストンサイクルの自転車競技部は1964年に発足されており、少なくともブリストンとスポーツバイクの関わりは、50年以上の歴史があります。
その中の半分に当たる約25年の歴史を持つのが、RNC3 EXなどのANCHORのクロモリロードの要である「ネオコットフレーム」です。
ネオコットは「新形状最適化理論」とも呼ばれる、ANCHOR独自のフレーム成形技術です。
今でこそロードバイクのフレームに使用されるチューブは、長方形や六角形、またその複合など複雑な形状もあります。
しかし、ネオコットの開発当時はチューブは丸形が基本であり、金属を複雑な形状に加工することが難しかった時代です。
丸形チューブには応力が一点に集中しやすいという弱点があり、そのことで軽量化を図れなかったり、パワーロスを防ぐことのできないフレームになっていました。
そこに目を付けたのがブリヂストンであり、自転車のチューブは丸形に限らなくてよいという発想から、ネオコットの開発が始まっています。
ANCHORのネオコット製法とは
ブリヂストンが目を付けた丸形チューブからの脱却は、金属チューブを自由な形に成形する技術を身に付けるということでした。
そして、それを可能にしたのが「バルジ成形」という技術で、今では「ハイドロフォーミング製法」という呼び方のほうが、メジャーになっています。
チューブ内を高圧にしたオイルで満たし、その油圧で型に押し付け自由な形にする製法です。
現在の金属チューブ、特にアルミでは基本とも言える製法ですが、これを1980年代の後半に実用化に向けて発想したのですから、ANCHORの技術力や恐るべしといったところです。
そして、これも現在では多く用いられる製法ですが、1本のチューブ内に厚みの違う箇所を設け、剛性と軽量化という相反する要素のバランスを取る「バテッド」という製法も、ネオコットの開発のカギでした。
これらの技術により、強い応力が掛かるチューブ同志の接合部分は厚みを出して強度を高め、ラッパ状に広げることでラグ(継手)の役目も果たし、軽量化を図っています。
そして、応力の掛からない部分は薄く扁平させることで、軽量化と共に空気抵抗の低減や、衝撃の吸収性も高まり、非常にバランスのよいフレームに仕上がっています。
しかし、これらの技術は「RNC3 EX」にはフル投入されていませんので、その理由について次項でお話しします。
ANCHOR「RNC7」と「RNC3」の違い
前項でお伝えしたANCHOR・ネオコットの技術ですが、フルに投入されているのは、「RNC7」という上位グレードであり、RNC3 EXは下位グレードのため、一部しか投入されていません。
最も大きな違いは溶接の方法で、先述した通り、RNC7はバルジ成形で溶接部を広げ、継手代わりにしているので、接着剤であるロウが最低限で済みます。
また、パイプの間にロウを流しこんでいるので、強度も高くなります。
一方、RNC3はコストを抑えるために、チューブの端を溶かしてそれをロウ代りにして溶接する「TIG溶接」を採用しています。
溶接面積が小さく済みますので、素材を痛めないという利点がありますが、溶接痕が残るのと、チューブそのものが接着剤の役目をしているので、強度が弱くなります。
これにより、重量と乗り味に差が出ていると言われており、実際に乗って比較したインプレ情報でも、その差が指摘されています。
クロモリは非常にしなやかさのある素材で、それをフレームにするとバネ感やクッション性が出て、独特の腰のある乗り味になります。
しかし、溶接部分の強度が若干弱めなRNC3ですと、フレームの変形率がしなやかな範囲を超え、たわみになってしまう分、前に進まないフレームになります。
それでもANCHORの技術によって、様々な側面からカバーされているので、ロードバイクらしいキビキビとした走りは確保されていますが、RNC7と比べてしまうとグレードの差を実感せざるを得ません。
ANCHORのクロモリロードの中で筆者がRNC3 EXを推す理由
前項ではANCHORのRNC7とRNC3の違いをお話ししましたが、ここからはRNC3でも筆者がEXをおすすめする理由についてお話しします。
ANCHORのネオコットフレームは、製品化前の試作機でオリンピック出場を果たしているように、レースモデルとして誕生しています。
そのため、今でもその名残りが残っており、ジオメトリはレーシーで反応や空気抵抗の低減を意識している形状です。
しかし、さすがにカーボン全盛時代に、クロモリでレースを目指すのは正直非効率的ですし、同じレーシングジオメトリなら、アルミのほうがよりスピードは期待できます。
そのため、筆者の独断も入りますが、クロモリはその乗り心地や耐久性を考えれば、ツーリングやサイクリングなどの趣味、また、通勤などの普段使いに向くと考えられています。
そうなると、実用車として見ることになるわけですが、それにしては上位グレードのRNC7は価格が高いです。
カーボンフレームのミドルグレード「RS8」とほぼ同額ですから、それならカーボンを選んだほうが、後にレースも視野に入れられる分、有利なのではと思います。
したがって、クロモリフレームなら、RNC7の約半額で購入できるRNC3のほうが、より現実的な選択であると筆者は考えています。
ANCHORのクロモリロードの中で筆者がRNC3 EXを推す理由~続き
ANCHORのRN3にはフレームセット(フレーム+フォーク)と、コンポのグレードによる2種類の完成車が用意されています。
シマノ・105を搭載した「EQUIPE」と、シマノ・ソラを搭載した「EX」で、これが筆者がRNCでもEXのほうを推す理由になります。
105のほうがグレードが上ですので、トータルの走行性能はEQUIPEのほうがよいのは確かです。
しかし、105は元々レースを想定して作られている物であり、筆者のようにクロモリをレース向きと考えないのであれば、105はRNC3にとってオーバースペックとも言えます。
両者の価格差は5.5万円ですが、フレームは同じ物ですし、その他のパーツもそこまで大差はありませんので、コンポの価格差が大きいわけです。
ロードバイクを初めて購入する際は、本体だけではなく、ボトルケージやサドルバッグなどの装備品や、ヘルメット、手袋などのアパレルも必要なので、予算内に収まらないことも多々あります。
そのため、安いことに越したことはないとも言えますので、筆者はEXで十分ではないかと考えている次第です。
RNC3 EXにもネオコットの技術は生きている!
今回はANCHORのクロモリロードの中でも、特にRNC3 EXをおすすめしました。
趣味や生活に密着した用途が考えられるクロモリロードでは、コスパを求めるのが得策かと思います。
RNC3は下位グレードですが、ネオコットの技術は投入されており、実用車としては十分に機能するものなので、胸を張っておすすめします。