今回は、ピナレロのアルミロード「NEOR(ネオール)」をご紹介します。
貴重なアルミフレームであり、なおかつピナレロの歴史を刻んできた初代プリンスが原型になっているという、価値あるバイクです。
そんなNEORをご紹介しながら、どんなインプレ評価を受けているのか確認してみましょう。
ピナレロ・NEORは伝統の「カーボンバック」
今回の主役であるピナレロのNEORは、「カーボンバック」という特殊なアルミフレーム車です。
現在のアルミフレーム車は、一部10万円を切るような車種を除き、フロントフォークがカーボン製です。
しかし、NEORはサドルの下から後輪中央に向かって伸びる「シートステイ」も、カーボン製になっています。
これは1990年代の後半、まだフルカーボンフレームが高額過ぎて実用的では無かった時代に、ピナレロが世界で初めて投入した技術です。
1998年に今でもその名がラインナップに残る「PRINCE(プリンス)」が、カーボンバック第一号として世に送り出されました。
上記のようにカーボンの乗り心地をほとんどのサイクリストが経験したことが無い時代ですから、爆発的なヒットとなり、納車1年待ちなどという記録も残っているほどでした。
他メーカーもこの技術を高く評価し、追随したと聞いています。
現在はご存知のようにフルカーボン全盛となり、アルミにもカーボンフォークが基準という時代になったので、カーボンバックは少数派となり、2018年までラインナップされていたNEORも2019モデルにはその名がありません。
ピナレロがカーボンバックを開発した理由
ロードバイクはスピードが出る上にタイヤが細いので、地面からの突き上げや、段差を超える際の衝撃が、フレーム全体に伝わりやすくなっています。
まして、金属であるアルミは伝導率が高く、何でもストレートに伝わってしまうところがあります。
夏の暑い日に炎天下で公園の鉄棒などは熱くて触れたものではありませんが、もし朝からずっと鉄棒にタオルを掛けていたとしたら、熱さは感じるでしょうが触れないほどのことは無いはずです。
これが伝導率の違いであり、カーボンはタオルと同じ「繊維」ですから、振動の伝導率がアルミよりも低く、衝撃を吸収してくれます。
したがって、衝撃吸収に大きく関わるシートステイに、既に乗り心地ではアルミをしのぐ評価を受けていたカーボンを使ったのが、NEORが受け継ぐピナレロのカーボンバックということになります。
今ではスタンダードになったカーボン製のフロントフォークも、このカーボンバックがヒントになったと言われており、ピナレロはアルミフレーム車の歴史に大きな一石を投じたブランドと言えるでしょう。
そのピナレロからもカーボンバックが消えてしまうのは、時代の流れとは言え、何ともさびしさを感じます。
ピナレロ・NEORは高評価になってしかるべき
前項の最後に触れましたが、NEORは2018年モデルがラストになる可能性が高くなります。
初代プリンスの直系ということもあり、「DOGMA(ドグマ)」というモンスターバイクの登場で新時代を迎えた感のあるピナレロにおいては、伝統を受け継いできたNEORが貴重な存在でした。
前項でお伝えしたカーボンバックもそうですが、ピナレロ独自のクネクネと複雑な形状を描く「ONDA」のフロントフォークも、昔ながらの形状になっています。
今のドグマやプリンスのONDAフォークは、曲げ加工が少し抑えられたシンプルなデザインですが、NEORのフォークは人間の脚のような脚線美がとても個性的で、デザインが高い評価を受け続けてきた伝統の造形です。
また、これもピナレロが世界で初めて開発した、フレームの左右が非対称形で、剛性やパワーのバランスを均等化する「アシンメトリックデザイン」。
そして、ヘッドパーツをチューブに内蔵する「インテグラルヘッド」など、NEORは多くの先端技術が盛り込まれたアルミロードだったのです。
ピナレロ・NEORの価格的評価
そんなNEORですが、ラインナップを外れるのは需要がなくなったということになります。
その原因の一つには、価格が大きいかと思います。
2018モデルのメインコンポは、リア10速のシマノ・ティアグラで、普通にツーリングや街乗りであれば不満は少ないですが、レースに使用するには心もとないレベルのコンポです。
ホイールはシマノ「RS010」で、現在シマノの市販ホイ-ルの中では底辺のグレードのものです。
この組み合わせで、完成車が225,720円(税込)というのは、純粋なアルミフレーム車では考えられないことであり、カーボンバックとしてもかなりの高額と評価せざるを得ません。
さらに言うのであれば、NEORはアルミ・カーボンバックですが、他メーカーではフルカーボン、しかもコンポのグレードが一つ上がって、なおかつNEORよりも安い金額で手に入る物もあります。
ピナレロでもあと40,000円ほど奮発すれば、フルカーボンの「RAZHA(ラザ)」や「ANGLIRU(アングリル)」に手が届きます。
そういったこともあり、NEORは需要がなくなってしまったと考えられます。
ピナレロ・NEORの消滅はアルミフレームの評価が上がったのが原因か
ピナレロ・NEORはお伝えしている通り、2019モデルにはラインナップされません。
市場価格とのずれが大きいことが主因かと思いますが、近年のアルミフレームの性能が上がったことも見逃せません。
先ほどお伝えしたように、アルミはカーボンよりも伝導率が高いので、衝撃を伝えてしまうものではあります。
しかし、素材の特性の不利を、造形でカバーしているのが今のアルミフレームです。
原理はクネクネとしたピナレロのONDAと同じで、所どころに曲げ加工を施して、衝撃を受け流しています。
また、1本のチューブ内で厚みの違う箇所を設ける「バテッド」という技術も、アルミ成形では定番になってきました。
今までは力が掛かる部分を基準として強度を出してきたので、アルミではどうしても肉厚で重いチューブになっていたのです。
しかし、強度が必要な部分を厚く、その他の部分は薄くすることで、軽量化も図れ、薄くすることで適度なしなりも生み出されて、衝撃吸収性も高められています。
こういった技術を投入することで、機種によっては、カーボンフレーム以上の評価を受けるものもあります。
ピナレロの伝統的なデザインを引き継ぐ一台
「カーボンバック」ではピナレロにNEORの後継機は見られませんが、ほとんどの機種がエアロロード化した中で、伝統の形状を引き継いでいる機種がありますので、最後にご紹介します。
【RAZHA(ラザ)】
参考価格:¥262,440円(税込)
先々代のフラッグシップモデル「ドグマ65.1」技術を受け継いだモデルで、造形がとてもよくNEORに似ています。
また、NEORのシートステイに採用されているのと同じ素材が使われたフルカーボンフレームで、しなりがあって衝撃吸収性にも優れています。
伝統のアシンメトリックデザインで、剛性と応力の掛かりのバランスがよく、人を選ばない扱いやすさが評価されています。
イタリア空軍が採用している国籍識別マークがペイントされていたり、「落ち着いて、冷静に」というイタリア語が書かれていたりと、どこか遊び心を持ったピナレロらしいモデルです。
カーボンバックの終焉か?
今回は、ピナレロのアルミ・カーボンバック車「NEOR」をご紹介しました。
シートステイにカーボンを使用するという、ピナレロが世界に先駆けた画期的な技術を受け継いできましたが、2018年モデルをもってその使命が終了します。
型落ちや中古品などで見掛かる機会がありましたら、一考の価値があるかと思います。