ピナレロのロードバイク「ドグマF10」には、東レ社の「T1100G」というカーボン素材が使用されています。
この「T1100G」は、現在のロードバイクに使用されるカーボン素材としては、最高レベルの素材ですが、普通のカーボン素材と何が違うのでしょう。
この記事では、カーボン素材こと「CFRP」の概要と、それらに対して「T110G」は何が違いロードバイクにどのような影響を及ぼすのか、についてお話しします。
ピナレロのカーボンロードバイクの「カーボン」とは?
ピナレロのロードバイクに限らず、今や「カーボン」は、レースの現場のみならず、ハイエンドクラスからエントリークラスのロードバイクまで広く普及しています。
そんな「カーボン」の特徴を一言で言い表すならば、「軽くて強い」でしょう。
その特徴により、従来、鉄やアルミニウムが使用されていた用途の代替品として、工業分野などで瞬く間に普及しました。
現在、一般的な素材となった「カーボン」ですが、そもそも、一体どのような素材なのでしょうか。
一般的なカーボンロードバイクなどに使用される「カーボン」は、正式名称「CFRP」と言います。
「CFRP」とは「Carbon Fiber Reinforced Plastics」の頭文字を取った略称であり、日本語訳にすると「炭素繊維強化プラスチック」です。
つまり、カーボンロードバイクの「カーボン」は「CFRP」、大まかに分類すると「プラスチック」です。
しかし、そのカーボンこと「CFRP」と「プラスチック」では、強度も剛性も全く異なります。
カーボンロードバイクはもとをたどると「糸」と「プラスチック」!
この章では、ピナレロのロードバイクにも使用される、カーボンこと「CFRP」製品の製法についてお話しします。
「CFRP」は、「炭素繊維強化プラスチック」という名から分かるように、プラスチックに炭素繊維を混ぜ込み強化したものです。
「炭素繊維」と「プラスチック」が合わさることで、プラスチックにない強度と剛性を実現しています。
その「炭素繊維」とは、ポリアクリロニトリル繊維などから、炭素以外の元素を取り除いて作った「糸」のことです。
この糸を、ただプラスチックに混ぜ込むのではなく、まずは織り上げて、布状やシート状に加工します。
その炭素の糸で織り上げた布に、エポキシ樹脂などのプラスチックを染み込ませて、「プリプレグ」と呼ばれる、中間製品を作ります。
この「プリプレグ」を、金型に貼り重ねていき、製品の形を作ります。
この作業を例えるなら、骨折した部分の固定に「プリプレグ」の石膏ギプスを用いるようなイメージです。
製品の形状ができたら、高温高圧をかけて硬化させます。
加熱成型する過程で、余分な樹脂や入り込んだ空気が追い出されます。
成型が完了したら、最後に表層を保護する塗料を拭き、CFRP製品が完成します。
ピナレロのカーボンロードバイクに使用される「炭素繊維」とは?
「CFRP」の概要がつかめたところで、ピナレロのカーボンロードバイクに使用される「CFRP」についてお話しします。
ピナレロのカーボンロードバイクの「CFRP」には、東レ社の炭素繊維が使用されています。
ピナレロのカーボンロードバイクは、グレードに合わせて、「T1100G」「T900」「T700」「T600」という4種類の炭素繊維を使い分けています。
具体的に、ドグマF10には「T1100G」、PRINCE FXには「T900」、PRINCEには「T700」、GANおよびRAZHAには「T600」がそれぞれ使用されています。
高価なモデルに使用される炭素繊維ほど、Tの後に続く数字が大きいことからも分かるように、数値が大きいものほど、強度や剛性に優れています。
しかし、その炭素繊維の強度や剛性が、カーボンロードバイクの強度や剛性に直接表れているわけではありません。
そういった特性を持つ炭素繊維を使用したプリプレグを、どの部分に、どの方向で、どれだけ貼り合わせたかによって、カーボンロードバイクの強度や剛性は変化します。
強度や剛性に優れる素材によってロードバイクが軽くなる理由は?
前章の終わりで、プリプレグの貼り合せ方次第で、強度や剛性は変わるとお話ししました。
それならば、ピナレロドグマF10のプリプレグに使用される炭素繊維は、高級な「T1100G」でなくともよさそうに思えます。
しかしそれは、カーボンロードバイクの「軽さ」を実現するために重要な役割を担います。
それを理解するための例えとして、Aという材料1kgあたりの強度と剛性を1、Bという材料の1kgあたりの強度と剛性を2として、10の強度と剛性をもつロードバイクを製造するとします。
すると、A材料は10の強度と剛性を実現するためには、10kg分の材料が必要ですが、B材料は10の強度と剛性を5kg分の材料で実現できます。
つまり、強度と剛性に優れた材料を使用すれば、ロードバイクをより軽く作れます。
このような理由から、ピナレロドグマF10は軽量性の追及のため、より強度と剛性に優れた「T1100G」を使用しています。
実際には「T1100G」を使用したピナレロドグマF10と、「T600」を使用したGANが同じ強度や剛性で作られているわけではありません。
ピナレロドグマF10に使われる「T1100G」独自のテクノロジー!
前章では、ピナレロドグマF10には、「強度と剛性」が優れた「T1100G」を使用することで、カーボンロードバイクの軽量化を実現しているとお話ししました。
しかし、本来は「強度と剛性」は両立しない、相反する要素です。
それを説明するために、おもちとおせんべいの例を挙げます。
まず、「剛性」は、力を加えられたときの変形のしにくさを言います。
当然、おせんべいの方が変形しにくいので剛性は高いと言えます。
対して「強度」は、引っ張ったときに、どの程度の力で破断するかという指数です。
おもちは伸びて変形することで、おせんべいよりも破断に耐えられるため、おせんべいより強度が高いと言えます。
つまり、剛性が高ければ柔軟性がないため強度が落ち、強度が高ければ柔軟性があるため剛性が落ちると言えます。
では、ピナレロドグマF10に使用される「T1100G」は、なぜ両者を両立できるのでしょうか。
それは、東レ社の特許技術である「ナノアロイ」によるものです。
「ナノアロイ」技術を簡単にご説明しますと、「CFRP」の合成樹脂をナノメートルレベルで分散させる技術です。
これにより、合成樹脂に含まれるポリマー固有の特性を十分に発揮できるようになり、「強度と剛性」を両立しています。
「CFRP」だから可能だった!ピナレロ「ドグマF10 Xlight」とは
最後の章では、「CFRP」の改良によりさらなる重量削減を果たした、ピナレロの軽量カーボンロードバイク「ドグマF10 Xlight」についてお話しします。
この「ドグマF10 Xlight」は、ドグマF10のマイナーチェンジ版のモデルです。
「ドグマF10 Xlight」は、ドグマF10と同じ形状ながら、剛性はそのままに、フレームの重量を60g削減しています。
これは、製造に使用するプリプレグの樹脂の含有率を極限まで抑えたことによります。
また、樹脂の含有率が変われば、当然プリプレグの特性も変わるため、それに合わせてプリプレグの貼り合せ方法も変更され、最適化がなされています。
通常の素材では、ロードバイクに使用する素材の特性が変われば、強度も剛性も変わるため、ロードバイクの形状も変更が必要です。
しかし、「CFRP」の場合、プリプレグの貼り合せ方の工夫により、同じ形状を保ったまま強度と剛性も確保できます。
それによって、ドグマF10のエアロ効果の高いフレーム形状を犠牲にせず、フレーム重量の60gの削減が可能になりました。
まさに、「CFRP」があってこその「ドグマF10 Xlight」であると言えます。
「CFRP」の改良が続く
ピナレロのドグマF10がなぜ同じカーボンロードバイクの中でもとても軽いのか、ということがこの記事を読んでいただけた方は分かったかと思います。
また、東レの技術はとても素晴らしいことも分かっていただけたのはないでしょうか。
まだまだ技術革新が続いており、「CFRP」の改良により、今後ますますカーボンロードバイクの性能は向上するでしょう。
カーボンのことを知ることで、よりロードバイクのスペックの内情を知り、性能を見る楽しさが出てくるかと思います。