2018年のツールドフランスは、7月7日から7月29日までの計21ステージで開催され、数多くの名勝負が繰り広げられました。
ヴィンツェンツォ・ニバリ選手率いるバーレーンメリダは、エースのニバリ選手の不運の落車によるリタイアにより、苦しい展開となりましたが、最後まで奮闘しました。
この記事では、そのバーレーンメリダが使用したロードバイクを紹介します。
バーレーンメリダってどんなチーム?
はじめに、バーレーンメリダチームについて簡単にご紹介します。
バーレーンメリダは、2017年に発足した中東籍のUCIワールドツアーチームです。
その名の通り、チームのスポンサーはバーレーン王国の企業による共同出資団体です。
バーレーン王国は、ペルシャ湾に浮かぶバーレーン島を中心とした島々からなる国家です。
国土は非常に小さく、東京23区に伊豆大島を足したほどの面積しかありません。
しかし、石油関連の産業や、中東の金融センターとしての役割により、高い経済水準を誇ります。
そのような、バーレーン王国の経済力により、バーレーンメリダチームは、プロサイクリングチームの中でも指折りのリッチなチームです。
チームのエースは、イタリア人オールラウンダーの、ヴィンツェンツォ・ニバリ選手です。
チームの至上目的は、ツールドフランスに代表されるような、ビッグレースでの勝利です。
それを実現するために、ニバリ選手をバックアップする強力なアシスト選手をチームに迎ています。
そのため、バーレーンメリダは、プロトンの中でも最強格のチームとして君臨しています。
バーレーンメリダがツールドフランスで使用した主力バイク「REACTO TEAM-E」
では、バーレーンメリダが2018年のツールドフランスで使用したバイクをご紹介します。
チームのエースであるニバリ選手や、平坦なステージにおいては「REACTO TEAM-E」を使用しました。
「REACTO TEAM-E」は、メリダがラインナップするエアロロードバイクの、フラッグシップモデルです。
そのバイクに、フルクラムの「Speed 40T」というチューブラーホイールを合わせて使用しています。
メインコンポーネントは、シマノのデュラエースDI2ですが、クランクには「SRM」のパワーメーター付きのクランクが取り付けられています。
ニバリ選手のバイクには、ツールドフランスを含む、3大グランツールを制したことを表す、スペシャルペイントが施されています。
また、ニバリ選手の「REACTO TEAM-E」のサドルは、チームのスポンサーのプロロゴのサドルではなく、フィジークのサドルを、表皮を張り替えて使用しています。
さらに、ペイントの簡略化や、軽量チタン製クイックリリースの使用などにより、軽量化が突き詰められています。
ツールドフランスの石畳ステージ攻略のための「SCULTURA TEAM-E」
次に、石畳のステージや山岳ステージで使用された「SCULTURA TEAM-E」をご紹介します。
「SCULTURA TEAM-E」は、メリダの軽量オールラウンドモデル「SCULTURA」シリーズのフラッグシップモデルです。
コンポーネントやホイールなどのパーツは、先に述べた「REACTO TEAM-E」とほぼ同様です。
しかし、「REACTO TEAM-E」のボトルケージには、フルカーボンのLeggeroボトルケージが使用されているのに対し、「SCULTURA TEAM-E」にはより一般的な、Custom Race PLUSボトルケージが採用されています。
これは、石畳のステージ対策のひとつであると考えられます。
おそらく、フルカーボンのLeggeroボトルケージは、軽量な分、ボトルのホールド力や破損のリスクの大きさなどの面で、Custom Race PLUSボトルケージに劣るため、石畳のステージではCustom Race PLUSボトルケージが選ばれたのでしょう。
ちなみに、ツールドフランスを走るプロサイクリングチームが使用するロードバイクのフレームの価格は、それ単体で50万円以上するフレームも、めずらしくありません。
しかし、バーレーンメリダが使用する「REACTO TEAM-E」および「SCULTURA TEAM-E」は、フレーム単体で30万円前後と、フラッグシップモデルの中ではお手ごろな価格です。
バーレーンメリダが使用した新作TTバイク!「WARP TT」
バーレーンメリダが、ツールドフランスのタイムトライアルステージで使用したバイクが「WARP TT」です。
ホイールは、リアホイールにディスクホイールの「Speed 360T」を使用し、フロントホイールはメーカーロゴが廃されたチューブレスのエアロホイールを使用しています。
このロゴなしのホイールは、カンパニョーロの「BORA WTO 77」であるようです。
わざわざサポート外のホイールを使用する理由は、タイムトライアルにおいて負荷の大きいフロントタイヤに、転がり抵抗が少ないチューブレスタイヤを使用するためでしょう。
タイムトライアル用であるため、チェーンホイールのギアは58T-44Tと、非常に大きなギアを使用しています。
なお、クランクは通常のバイクと同じく「SRM」社製のクランクを使用しますが、「WARP TT」には、市販されていないアルミのクランクが取り付けられています。
なお、このTTバイクの日本での発売は、まだアナウンスはありません。
プロ支給品のスペシャルタイヤ!「COMPETITION PRO LTD」
バーレーンメリダがツールドフランスで使用するロードバイクには、コンチネンタルのチューブラータイヤが取り付けられています。
コンチネンタルのタイヤには、ブラックチリコンパウンドというテクノロジーが用いられています。
これにより、タイヤのゴム本来のしなやかさを保ちつつ、高いレベルの対磨耗性能を実現しています。
使用するタイヤは、通常のステージでは、「COMPETITION PRO LTD」というモデルです。
しかし、コンチネンタルから発売されているタイヤのカタログを見ても、「COMPETITION PRO LTD」はラインナップされていません。
これは、「COMPETITION PRO LTD」がプロ支給品であり、レースに合わせてメーカーが特別に生産しているからです。
市販品との大きな違いは、チューブにあります。
市販品に使用されるチューブは、扱いやすいブチルチューブですが、「COMPETITION PRO LTD」には、管理が難しい分、乗り心地に優れるラテックスチューブが使用されています。
今年のツールドフランスでディスクブレーキが「使われなかった」わけ
2018年のツールドフランスでバーレーンメリダが使用したバイクは、全てリムブレーキモデルでした。
制動力に優れるディスクブレーキの使用が認められ、なおかつ、「REACTO TEAM-E」「SCULTURA TEAM-E」の両モデルにディスクブレーキの用意があるにもかかわらず、なぜディスクブレーキを使用しなかったのでしょうか。
これは、チームのエースであるニバリ選手が、リムブレーキのロードバイクを使用するためです。
なぜなら、レース中にニバリ選手がパンクし、なおかつ即座に交換用のホイールが用意できない場合、チームメイトが自分のホイールを渡す必要があるからです。
ディスクブレーキとリムブレーキの間には、ホイールの互換性はないため、エースのニバリ選手のために、チーム全員がリムブレーキを使用する必要があるのです。
では、なぜニバリ選手はリムブレーキにこだわるのでしょうか。
その理由も、パンクした場合に迅速にホイール交換をするためです。
ディスクブレーキのホイールよりも、リムブレーキのホイールは扱い慣れている分、素早く交換ができます。
さらに、ニバリ選手が完全に孤立した状態でパンクした場合、ニュートラルサポートからホイールをもらいますが、その際、ディスクブレーキ対応のホイールが確実に用意されている保証がないからです。
こういった事情があり、プロ選手の間では、リムブレーキが支持されています。
チームのロードバイクに見えるチーム内の裏事情
今回の記事では、バーレーンメリダのロードバイクをご紹介しました。
このように、プロチームのロードバイクを見ると、チーム内の力関係や、場合によってはチームの財政事情などもうかがい知れます。
今後、プロのロードバイクを見る機会があったら、そういった面から見てみると、一層楽しめるかと思います。