スポーツタイプの自転車のサドルの高さを決める際に、自分の股下の長さに任意の係数を掛けて導きだすという方法があります。
目安ができますので、何もないところから設定していくよりは、やりやすいです。
これは割と多く用いられる手法ですが、頼り切ってしまうのは少し危険で、場合によっては自分に合っていないポジションで乗ることになってしまいます。
そこで今回は、この手法を掘り下げて考えてみましょう。
効率がよいペダリングが可能なサドルの高さを目指す
まず冒頭でなぜ「スポーツタイプ」という条件をつけたかといいますと、ママチャリにはサドル高をそこまで厳密に設定する必要性が低いからです。
ママチャリは普段使いが主で、生活の足として乗られることが多いかと思います。
ロードバイクのようにスピードが求められるわけでもなければ、MTBのように悪路をものともしない力強さが必要なわけでもありません。
求められるのは、街中の雑踏でもフラフラしたりしない車体の安定感と、しっかり走ってしっかり止まれる安全性です。
そのため、何かあった際には地面に足が付かなくては危険極まりないので、サドル高は、跨った時に足の裏まで地面に付くことが最優先です。
しかし、スポーツタイプの自転車は趣味で乗られることが多く、走りを楽しむのが目的なので、自転車の性能を目一杯まで引き出したいものです。
そうなると、いかにしてペダルを効率よく力強く回せるかがポイントになるので、サドルの高さもそれに合わせていく必要があります。
そして、そのサドルの高さを決める一つの目安になるのが、今回のテーマである股下×任意の係数という方法です。
今回は、特に効率のよいペダリング(ペダルを回すこと)が必要になる、ロードバイクのお話になります。
自分の股下の長さからサドルの高さを導き出す係数
ロードバイクのサドル高を合わせる方法は様々ありますが、まずは数値で示すのが分かりやすいので、股下×係数で出していきます。
それには当然、自分の股下の長さを知らなければなりませんので、測ってみましょう。
足を15㎝~20㎝(サドルに跨ってペダルに足を乗せた状態)開き、本やCDケースなど幅のある物を股に挟みます。
「物が股間に当たる所から地面の距離」が自分の股下ということになりますが、一人で測るとずれてしまったりするので、出来れば誰かに手伝ってもらいましょう。
自分の股下が分かったら、いよいよ高さの設定に入っていきますが、係数というのは色々な説があり、「これで決まり!」と特定されているわけではありません。
概ね、0.8台ではありますが、上級者は0.890~0.900、中級者は0.870、そして初心者は0.860とする意見があります。
また、自転車界の有名レーサーでも、日本のカリスマレーサーである今中大介氏は0.870です。
オリンピックで金メダル2回、ツール・ド・フランスステージ8勝の英雄、ファビアン・カンチェラーラは0.840だったと言われています。
このように、係数は人それぞれであり、万人に合わせられるオールマイティな数値は存在しません。
しかし、それでは話が前に進みませんので、次項では筆者の股下を参考に、上記の数値に合わせて検証してみます。
股下×係数でサドルの高さはどう変化する?
それでは筆者の股下の長さ(80㎝)を参考に、様々なサドル係数の検証をしてみます
まずは最も高くなる上級者の係数0.900を掛けますと、72.0㎝になりますが、これは明らかに高すぎて、「見ためだけでも無理」という感じです。
実際に跨ってみますと、ペダルの一番下(下死点)までくるとつま先がピーンとなってしまい、届いているのかも怪しいレベルです。
0.890なら8㎜下がりますが、それでも下死点ではかなり力が入ってしまいます。
次に、中級者向けと言われている0.870の69.6㎝ではどうかといいますと、下死点に来た時に膝が曲がり過ぎるのか、力が入り切らない印象を受けました。
さらに0.860の68.8㎝まで下がると、明らかに膝が曲がり過ぎて窮屈になり、ペダルに体重を乗せるようなペダリングは困難になります。
このように、筆者はどの数値でもしっくりとした感じが得られなかったので、最後に平均を取って、0.890と0.860の中間である係数0.875から算出したサドルの高さ70.0㎝にしました。
今のところこれが自分に一番合っていると思って走っていますが、今後もう少し微調整が必要ではないかと考えています。
サドルの前後位置を見直すと高さも変わる
前項では股下×係数でのサドル高の出し方の実践をご紹介しましたが、高さを合わせたら次は前後位置を合わせます。
ペダルを地面と水平になる位置にして、膝の中心とペダルの軸が垂直になるのが理想と言われています。
膝の側面から5円玉を付けた糸を垂らして、ペダルの軸に合わせるやり方が一般的ですが、誰か見てもらえる人がいればそれでもよいでしょう。
サドルは、地面に対して後斜めに倒れるようにして取り付けてありますので、サドルの前後位置を動かすと微妙に高さが変わります。
基本的には、前に出せば低くなり、後ろに引けば高くなりますので、ここでまた高さの微調整が必要になります。
最初は少し面倒ですが、この繰り返しをしながらポジションを決めていくことになります。
なお、ポジション決めを行う際は自然体を心掛け、意識的に前屈したり骨盤を左右に動かしたりしてはいけません。
無理な体勢を取れば高すぎても一時的には漕げてしまうので、そこがベストであると思いますが、それが長続きしないのなら、あまり意味はありません。
あくまでも無理のない自然体で、ポジションを出すようにしてください。
股下からマイナス10~12㎝で理想のサドル高に近づける可能性
ここまでは股下の長さに注目して、係数からサドルの高さを導き出す方法をご紹介してきました。
最初は数値化した方が明確で分かりやすいこともあり、この方法から入りましたが、もう少しアナログ的な考えで出す方法もあります。
前後位置の考え方は変わらないので、まず前項でお話しした方法でポジションを出します。
そこからペダルを下死点に持っていき、かかとを乗せた状態で膝が伸び切る位置までサドルを上げます。
そして、その位置で足を置く場所をかかとから親指の付け根あたりに動かすと、膝が少し曲がります。
その膝の角度が、30度から35度になるのが理想のサドルの高さになる、という説もあります。
膝が伸び切った状態をゼロとして、曲げてきた角度が30度~35度という意味です。
ただし、膝の角度を測る物はレアというか、ありふれたものでは無いので、簡単に測定できないはずです。
そこで、簡単に出せる方法として、サドル高を股下からマイナス10㎝~12㎝にすると、その角度に近づきやすくなります。
平均身長の方は-10㎝、小柄な方や柔軟性に自信がない方は-11~12㎝がおすすめです。
ちなみに筆者は、日本人の成年男性の平均身長に程近いので-10㎝にしますと、先ほど係数0.875で算出した70㎝になります。
これは偶然の一致ですが、2つの違う理論の数値が近いということは、信憑性が高い可能性はあります。
自分の乗り方によってサドルの高さを調整!
ここまでサドルの高さを自分の股下の長さから考えてきましたが、いくつか理論があり、係数も様々となれば、やはり一筋縄で収まることはありません。
今回ご紹介した方法にしても、サドルを新しいものに交換した時点で全てゼロからやり直すことになります。
また、サドルは最初は「地面と水平に取り付ける」と教えられるはずですが、サドルの形状によっては少し角度を付けないと股間が圧迫されたり、太ももに当たってペダリングがしにくいこともあります。
そして、走る場面によってもポジションは変化します。
ロングライドやヒルクライムでは、サドルを少し後ろ目にして低く設定した方が、疲れを露呈させずに粘り強く走ることができます。
一方、爆発力が必要なトライアスロンやタイムトライアルなどの短距離走では、前よりにして、高く設定するとペダルに力が込めやすくなります。
ですから、今回お伝えした方法論で目安を出してからは、自分の乗り方や用途にしたがって、自分なりのポジションを目指して微調整を加えていくということになります。
ポジション決めをしたら徹底的に乗りこむことが大切
今回は、主に自分の股下の長さからロードバイクのサドル高を算出する方法をご紹介しました。
万能ではないですが、理想に近づけるという意味では効果的なので、ぜひ一度試してみて頂きたいと思います。
また、理想のサドル高に近づくためには距離を乗りこむ必要がありますので、ポジション決めをしたら50㎞、100㎞と乗って問題点を探るようにしましょう。