スペシャライズドで絶大な人気を誇る「パワーサドル」ですが、形状が独特のためセッティングが難しいという噂があります。
トライアスロンやTT(タイムトライアル)用のサドルからヒントを得ていることもあり、一般的なローバイクの取り付け位置では合わないという話もあります。
そこで今回は、パワーサドルのセッティングについて考えてみましょう。
スペシャライズドのパワーサドルが開発された経緯
スペシャライズドは、近年グランツールで輝かしい成績をあげているフレームビルダーです。
そのため、市場でも自転車本体に目が行きがちですが、実はサドル単品としても人気が高く、別メーカーのスポーツバイクユーザーさんからも多くの支持を受けています。
今となってはレース屋のイメージが強いのでサドルもレース仕様が中心にはなりますが、今回の主役である「パワーサドル」は初めてのサドル交換という方にも多く使用されていると聞きます。
パワーサドルの開発は、深い前傾姿勢を取った際の股間への圧力から来る、血流不足、しびれ、痛みといった問題点があったことからスタートしています。
その中で専属ライダー達から「シテロ(トライアスロンのサドル)を流用しては?」という意見が出たので、それを元に開発されています。
冒頭でもお話ししましたが、セッティングの難しさなどがあり、賛否両論もあるサドルです。
しかし、トライアスロンやTTというスピードに特化したものが元になっているサドルでありながら、快適性の評価も高いのがパワーサドルの優れた性能を表しています。
スペシャライズドのパワーサドルの「短さ」がもたらす恩恵
スペシャライズドのパワーサドル最大の特徴は前後の「短さ」で、270㎜前後の長さが主流の中、パワーサドルは全長が240㎜しかありません。
先端のノーズ部分をバッサリ切り落としたような形状で先のギリギリまで穴が開いていますから、深い前傾姿勢による股間の圧迫は確かに避けられそうです。
また、先端が短いことで内ももに脚が当たっていた方などが当たらなくなったという報告もありますし、ペダリングのしやすさは感じられるはずです。
ロードバイクで下ハンを握り続けて走るのはかなりキツイことですが、パワーサドルではそれも実現可能と見られます。
また、パワーサドルは後部が広く大きいのも特徴で、坂の上りなどで上体を起こしてペダルを漕いだ時に、後方がしっかり支えてくれるので、ペダルに力を込めやすいという評価を受けています。
ただし、パワーサドルのように短いサドルは、セッティング時に真ん中から少し後ろに取り付けないと、脚が詰まってしまうので注意が必要です。
パワーサドルは自由度が高いがセッティング次第では弱点も
スペシャライズドのパワーサドルは座面が比較的フラットですので、お尻の位置を前後に動かしやすくなっています。
レースサドルは、様々な路面状況に合わせて姿勢や漕ぎ方を変えた時に対応できるかが重要です。
多くのユーザーさんが指摘していますが、その点でもパワーサドルは「どこに座っても」という自由度の高さがあります。
また、これは筆者の経験上からも言っておきたいことですが、レーシングパンツやタイツがサドルに引っかかるのは想像以上に不快感があります。
ダンシング(立ち漕ぎ)や腰を浮かせた状態から前傾に戻る時などに先端が引っ掛かると、ポジションを立て直さなければいけないのでストレスになります。
その点でもパワーサドルは、サドル上で動きやすい上に先端が短いので、ほとんど引っ掛かりがありません。
ただし、自由度が高いと言っても、弱点も少し見えます。
後方が少し垂れ下がっていて、エラが張っているような形状なので、セッティングでノーズを上げて後ろ下がりの角度にしてポジションを坐骨に合わせると、エラが脚に接触します。
ハムストリングの付け根に当たりますから不快感も大きいですし痛みも出ますので、注意しておきたい点です。
スペシャライズドがパワーサドルのセッティングに推奨していること
ここまでパワーサドルの特徴をお話ししていますが、セッティングという言葉がしばしば出てきています。
サドルの取り付け位置のことですが、スペシャライズドではパワーサドルのセッティングには「ボディジオメトリー・フィット」を推奨しています。
体の様々な部分を分析して、フィッティングを繰り返して最適なポジション出しをするというものです。
ポジションの最終判断は自分で下す必要がありますが、そこまでの手助けを徹底して行いますので、中には「4時間かかった」という報告もあります。
それによって、自分の乗車姿勢が大幅に変わったという人も多く、世界観まで変化している方も、少なくありません。
こうなると、パワーサドルのようにセッティングが難しいとされるものでも、最適なポジション出しが期待できます。
ボディジオメトリ・フィットは有料ですし、正規販売店でも全店で受けられるわけではありませんが、タイミングが合うようであれば、行ってみる価値はあるかと思います。
マニュアル通りでもパワーサドルのセッティングは難しい
前項でお伝えしましたが、ポジション出しは個人的な問題であり、無責任のように聞こえるかもしれませんが、パワーサドルのセッティングも一概に言えることではありません。
先ほど、後ろ下がりの際の不具合の可能性をお伝えしましたが、それに関しても、普段から前乗りで乗る方なら、さほど気にならないことです。
また、先ほども少し触れましたが、通常のサドルはまずレールの真ん中に取り付けてもらうことが多いですが、これですと先端がカットされている分だけ前に出過ぎてしまいます。
実際にスペシャライズドでは、パワーサドルに対して、通常のサドル先端位置から3㎝後退させた位置を推奨しています。
しかし、これも実際に筆者の知り合いは、3㎝引くと腰が安定しなくなるので少し前に出し、その分先端を5㎜ほど下げてポジションを出していました。
前乗り用のサドルではないので、知人は「これ以上前に出すと股間に穴のエッジが当たり厳しくなる」と言っていましたので、そこが最適と納得していました。
このように、マニュアル通りでも合わないのが、サドルセッティングの難しいところなのです。
パワーサドルの高さに関するセッティング
スペシャライズドパワーサドルのセッティングに関しては、元のサドルの形状にもよりますが、少し高さが低くなるという報告も見掛けます。
膝が曲がってゆとりができる分、人によってはペダリングの感覚が変わりますので、シートポストを上げる必要があります。
その際ですが、一般論としてはサドルが低いと膝の前面に痛みが出やすく、高いと裏側に痛みが出ると言われていますので、それも参考に高さを調整してみてください。
また、高さという観点からすると、パワーサドルをマニュアルでセッティングすると、背中が伸びて骨盤が立ち気味になるので、ハンドルが高く感じられるはずです。
リラックスポジションを求める方はそれでもいいですが、せっかくトライアスロンやTTなど前傾重視のサドルをベースにしたものなので、エアロポジションを取りたいですよね。
そのため、ハンドルが高く近いと感じるようなら、コラムスペーサーを1、2枚抜いてハンドルを下げてみることをおすすめします。
パワーサドルはセッティングの大切さを改めて教えてくれる
今回は、スペシャライズドのパワーサドルについてお話ししました。
独特な形状であるがゆえに得られる恩恵も大きいですが、そのためのセッティングがシビアで、一筋縄ではいきません。
しかし、サドルのセッティングはパワーサドルに限らず試行錯誤するものですから、正解を求めてやってみるしかありません。
今回の記事がその参考になれば幸いです。