「ピスト」は、シングルスピードで、しかも固定ギアになっている自転車を指します。
シングルスピードですから、ギア比をちょくちょく変えたくなるもので、他の車種に比べるとクランクやチェーンリングの交換が多くなります。
そこで今回は、ピストのクランク交換について考えていきましょう。
ピストは固定ギアのシングルスピード車
まず、これから「ピスト」の購入を考えている方のために、ピストとはどんな自転車なのかを説明しておきます。
自転車にはクランクの先に「チェーンリング」、後輪のハブに「スプロケット」というギアの歯車が装着されています。
この歯車にチェーンを掛けて、クランクを回すことで後輪に動力が伝わり、車輪が回転する仕組みです。
そして、この歯車が何枚かあることで車輪に伝わる力が変わり、スピードを変化させる行為を「変速」といいます。
一般的なスポーツ自転車は多段化されており、変速ができる仕組みになっています。
しかし、ピストなどのシングルスピード車は、歯車が前後共に1枚しか付いていないので変速ができません。
そのため、常時同じペダルの踏み具合になるので、クランクやスプロケットを交換したくなるわけです。
さらに、ピスト以外の自転車は、クランクから進行方向に向かっての動力が加えられたときのみ車輪が動くようになっています。
クランクを逆回転させたときに車輪が動かないのも、坂の下りや押し歩きなど惰性で車輪が動いている際に、クランクが回転しないのはこのためです。
これは「ラチェット機構」という仕組みで、後輪ハブのフリーボディーに内蔵されています。
しかし、ピストはこの機構がないので、車輪が回っている間はクランクも回転し続けますので足をペダルから離せなくなります。
このピストのギアのことを、「固定ギア」といいます。
ピストのギア比を変えるには?
前項でお話したようにピストは変速ができませんので、常に同じギアで走ることになります。
前後のギアの組み合わせのことを「ギア比」といいますが、これはクランクを1回転させたときに後輪が何回転すのかを表す数値です。
計算式は、「チェーンリングの歯車の歯数」÷「スプロケットの歯車の歯数」になります。
例えば、フロントがチェーンリングの歯数50、リアのスプロケットの歯数が25だったとすると、50÷25=2.5となり、クランク1回転につき車輪が2.5回転するという意味です。
多段化されている自転車であれば、この回転数をコントロールできますが、ピストはできません。
そのため、ギア比を変えるには、物理的にクランクのチェーンリングか、リアギアのスプロケットを交換するしか手がありません。
フロントギアであるチェーンリングは、ママチャリなどではクランクに溶接されている一体型ですが、スポーツ自転車は外すことができます。
そのため、クランクごと変えなくてもギア比を変えるのことが可能なので、ピスト乗りの人は割と手軽にカスタマイズしています。
ピストのクランク交換時に気を付けたいこと①アームの長さ
今回はピストのクランク交換を考えていきますが、ギア比の変更の他に、クランクの長さを変えることもできます。
スポーツ自転車の場合サイズは165mm~175mmくらいまでありますが、ピストは165mmのものが多くなります。
ピストは元々がトラック競技用に作られていますので、その競技の特性上クランクは回しやすいものである必要があります。
クランクを回しやすくするには、短くするのが効果的なのでピストのクランクは短くなっています。
ちなみに、回しやすさ優先のママチャリもクランク長はおおむね165mmで、大きな円を描いて勢いを付けたいロードバイクは、170mm以上が多くなります。
また、ピストは先述通り固定ギアですから、常にクランクが回転しています。
そのため、カーブなどで漕ぐのを止めたときにもクランクが回っているので、長いと地面に当たってしまい危険という理由もあります。
競技に出ないのなら、ロードバイクのように長いクランクで重いギアを回すことを考えても良いのですが、固定ギアということを考えると短い方が良いでしょう。
ピストのクランク交換時に気を付けたいこと②PCD
クランクの交換を考える際に「ギア比」、「クランクの長さ」と並んでもうひとつ重要な要素が「PCD」です。
クランクには「スパイダーアーム」というチェーンリングを取り付ける部分がありますが、ここのボルト穴を結んでできる円の直径のことをPCDといいます。
このPCDが大きいと、径が大きく歯数の多いチェーンリングが装着できるので、より重いギアが持てることになります。
ロードバイクでは110mmと130mmが主流ですが、ピストでは市販車は130mmが多く、競技用の中でも競輪では144mmのものが使用されます。
ただし、チェーンリングを頻繁に変える可能性があるのなら、PCD144mmの方がチェーンリングのサイズや種類は多いのでおすすめです。
PCDは直径を測るのは難しいのですが、隣合うボルト穴の距離によって調べることができます。
アームが5本付いているスパイダーアームの場合は、PCD130mmで76.4mm、144mmで84.6mmとなっていますので参考にしてください。
ピストのクランク交換にはBB(ボトムブラケット)が付きもの
ピストのクランク交換ですが、取り付けるクランクはここまでの説明で、おおむね目途が立ったと思います。
あとは、クランクとセットで考えなくてはならない「BB(ボトムブラケット)」です。
クランクはフレームに直接突っ込んでいるわけではなく、BBを介して取り付けられています。
ピストのクランクは「3ピースクランク」で、右クランク、左クランク、回転軸がそれぞれ独立したタイプです。
回転軸の両側にクランクを嵌合(かんごう)する昔ながらの方法で、回転軸はBBに付いています。
そのため、もしロードバイクをシングルスピードにしてピスト化を考えているのなら、BBまで交換する必要があります。
また、単に劣化などでピストのクランクを交換する場合も、BBとのはめ合せ部分の形状を確認しなければなりません。
クランクによって適合するBBが違うので一概には言えませんが、多くのピストは嵌合部分が四角形の「スクエアテーパー」です。
その他にも、シマノの「オクタリンク」などもあるので、確認が必要です。
また、軸の長さも重要で、理想は交換前と同じ長さにすることです。
スクエアテーパーのBBであればカードリッジの表面に軸の長さが記載されているので、それに合わせれば問題ありません。
あとは、BBの幅をフレームのシェル幅と合わせればOKです。
ピストのクランク交換手順
ここまでの説明でピストのクランク交換のパーツは揃いましたので、あとは交換するだけです。
前項までに、ピストのクランク交換のパーツに関して考慮することを確認しましたので、あとは交換するだけです。
交換前に、付属しているクランクの種類によって手順が違いますが、今回は今もピストの主流である3ピースクランクの話をします。
まず3ピースクランクを外すには、「コッタレス抜き」という工具が必要です。
1,000円もしないので、今後のためにも1本持っておくと良いでしょう。
他には「モンキーレンチ」、「六角レンチ」、BBも交換するなら脱着用の「BBツール」が必要です。
また、固着防止用に「グリス」を用意してください。
クランクを外す際は、コッタレス抜きのレンチの方で固定ボルトを外し、反対側のネジ切りをクランクの穴に突っ込みます。
最初は手で締め込んで、回らなくなったらモンキースパナでさらに締めこんでいくと、クランクが軸から抜け出る感覚があり徐々に外れます。
これを両側のクランクで行えば、外し作業は完了です。
BBはBBツールを差し込んで緩めていけば外れますが、右側は逆ネジなので時計回りに回すと緩みます。
取り付けは、BBからになりますが、全体に固着防止のためのグリスを塗ってから装着してください。
今度は取り付けなので、右側は反時計回りに回して締めていきます。
クランクは軸との嵌合部分と固定ボルトにグリスを塗ってから、軸にはめ固定ボルトをコッタレス抜きで締め込んでいきます。
しっかりと締めこんで固定を確認したら、作業は終了です。
ピストの特徴にあったクランクを選ぶ!
今回はピストのクランク交換を考えてみました。
交換の作業自体は難しいことはないですが、ピストの特徴を活かすためのクランク選びが重要です。
ギア比を考えると、歯数を合わせるためにPCDを気にする必要があります。
また、クランクの長さはペダルの軽さや回しやすさに直結しますので、自分に合ったものを選ぶのが最善です。
ただし、ピストは車輪が回転している内はクランクが回り続けますので、あまり長いアームは危険であることは覚えておいてください。