2018年のツール・ド・フランスは、チームスカイのゲラント・トーマス選手の総合優勝で幕を下ろしました。
ゲラント・トーマス選手の総合優勝には、本人の実力もさることながら、チームのアシストやスタッフの努力、機材などのスポンサーの助力があってこそ成し遂げられました。
そこで、この記事では、2018年ツール・ド・フランス総合優勝に機材面から貢献した、「ピナレロドグマF10」の詳細について迫ります。
ピナレロドグマF10ってどんなバイク?
ピナレロドグマF10は、ドグマF8の後継モデルとして、2017年に登場したピナレロのフラッグシップロードバイクです。
ピナレロドグマF10は、先代のピナレロドグマF8から、軽量化と剛性の向上を果たしただけでなく、空力面でもさらなる最適化がなされています。
ドグマシリーズのアイコンとも言える、2重の曲線からなるフロントフォークの末端には、「フォークフラップ」が設けられています。
これにより、ドロップアウト付近に整流効果をもたらします。
また、ダウンチューブのボトルマウント付近は、ボトルを装着した際にも空気の流れが最適になるよう、少し横に張り出しています。
このように、ドグマF10は、TTバイクさながらの空力処理がなされているにもかかわらず、他社の軽量フラッグシップモデルに勝るほどの軽量性を実現しています。
その、「軽量」と「空力」の2つの長所が最大限に発揮されたのが、2018年のジロ・デ・イタリアで伝説となった第19ステージです。
この山岳ステージでは、クリス・フルーム選手が80kmを単独で逃げ切り、勝利を飾っただけでなく総合順位争いの3分差をもひっくり返して、首位に躍り出ました。
これは、クリス・フルーム選手の実力もさることながら、ドグマF10の「軽量性」が登りで、「空力」が下りで、それぞれ発揮された結果でしょう。
ツール・ドフランス総合優勝にピナレロドグマF10が貢献!
2018年のツール・ド・フランスにて、ピナレロドグマF10を駆ったチームスカイは、第11ステージ、第12ステージでゲラント・トーマス選手が勝利を挙げました。
その、第11ステージ、第12ステージでの活躍により、ゲラント・トーマス選手は総合順位トップの座に着きます。
そして、そのままトップの座は譲らずシャンゼリゼのゴールにたどり着き、ゲラント・トーマス選手自身初の、チームスカイにとっては4年連続、通算6度目のマイヨ・ジョーヌを獲得しました。
ゲラント・トーマス選手がライバルと差を付けた、2つのステージは、どちらも山岳ステージでした。
前章で述べたジロ・デ・イタリアでの勝利のように、この時も、ピナレロドグマF10の山岳ステージでの強さが、ゲラント・トーマス選手のマイヨ・ジョーヌ獲得のための武器となったと言えるでしょう。
また、大会4連覇とはならなかったものの、個人TTステージでクリス・フルーム選手が王者の貫禄を見せる走りを披露しタイム差を逆転、それにより総合3位の表彰台を獲得しました。
チームスカイのピナレロドグマF10のドライブトレインはオーソドックス
この章から、チームスカイがツール・ド・フランスで使用した、ピナレロのドグマF10の詳細について見ていきます。
最初に、チームスカイが使用したドグマF10の、ホイールやドライブトレインに注目します。
チームスカイは、シマノの機材サポートを受けるため、ホイールやドライブトレインはシマノ製パーツでほぼ統一されています。
チームスカイのドグマF10に装着されたホイールは、シマノのデュラエースWH-R9100シリーズの、C40およびC60のチューブラーホイールです。
その2種類を、コースや風の状況に応じて使い分けています。
なお、デュラエースWH-R9100シリーズには、ヒルクライム向けのC24というモデルがラインナップされていますが、今回それの使用は見送られました。
続いて、ドライブトレインに注目すると、選手全員がデュラエースDI2を選択しています。
また、ブレーキについては、チーム全員がリムブレーキを使用しました。
これは、チームのエースであるクリス・フルーム選手がリムブレーキを好んで使用しているため、それに合わせた結果であると言えます。
楕円チェーンホイールをわざわざ使用する理由
チームスカイは、シマノのサポートを受けるため、ホイールやドライブトレインはシマノ製のパーツで統一されています。
しかし、クリス・フルーム選手のピナレロドグマF10には、例外的にオーシンメトリック製の楕円チェーンホイールが使用されています。
そのため、チェーン落ち対策として、クリス・フルーム選手のドグマF10には、ダウンチューブとチェーンステーに、自作のチェーン落ちガードが取り付けられています。
このチェーン落ちのリスクを容認してまで、楕円チェーンホイールにこだわる理由は、クリス・フルーム選手の「高ケイデンス走法」にあると思われます。
楕円チェーンホイールは仮想的に、下死点付近ではギアが小さく、力がかけやすい1時から4時まではギアが大きくなるように設計されています。
高ケイデンスで回す場合、大きいギアで発生した推進力が落ちきる前に、ペダルは下死点を通過して、再び力のかけやすい位置に戻り、推進力を発生させます。
そのため、速度が落ちる前に、常に力をかけやすい状態で大きなギアを踏むことになり、その結果、普通のチェーンホイールを使用するより速く走れます。
ピナレロドグマF10に使用された「3Dプリンタ製自作パーツ」!!
チームスカイは、プロトン内で新しいトレンドを生み出すチームとして知られています。
例えば、今は常識とされているレース前のアップなどは、チームスカイが最初に始めました。
そういった今後のトレンドとなりうるものが、クリス・フルーム選手のピナレロドグマF10や、TTバイクに使用された、「3Dプリンタ製自作パーツ」です。
前章で述べた自作のチェーン落ちガードや、クリス・フルーム選手のステム一体型ハンドルは、金属3Dプリンターによって製作されています。
3Dプリンターの登場により、選手それぞれのリクエストに合わせた、複雑な形状のハンドルの製作を可能にしました。
また、クリス・フルーム選手のハンドルをよく見ると、上ハンドル部分の根元付近に、デュラエースDI2のサテライトスイッチが、ボタン部分のみ露出する形でハンドル内に納まっています。
このような細かいリクエストにも、3Dプリンター製のパーツを使用することにより、柔軟に対処ができます。
山岳決戦仕様!ピナレロドグマF10「Xlight」とは?
実は、正確に言うとチームスカイは、山岳ステージではピナレロドグマF10を使用していません。
チームスカイは、山岳ステージでは「ピナレロドグマF10 Xlight」というモデルのバイクを使用しました。
この「ピナレロドグマF10 Xlight」は、通常のピナレロドグマF10から極限まで軽量化を果たした山岳決戦専用のモデルです。
見た目からは両者の違いは判別できず、強いて言うなら、控えめに施された「Xlight」のロゴに見て取れるだけです。
しかし、「ピナレロドグマF10 Xlight」には、硬化剤および接着剤である樹脂の含有率が低いカーボン素材が使用され、それにより、ピナレロドグマF10のフレーム重量からさらに60gの削減に成功しています。
ここまで軽さを突き詰めると、強度面で制約が発生します。
現に、「ピナレロドグマF10 Xlight」には、装備込みで最大85kgまでという重量制限が課せられています。
そのため、激しい衝撃にさらされる危険のある通常ステージでは、「ピナレロドグマF10 Xlight」は使用されず、通常のピナレロドグマF10が使用されています。
なお、この「ピナレロドグマF10 Xlight」はプロ専用品かと思いきや、一般販売されており、誰でも購入が可能です。
しかし、価格はフレームセットのみで¥900,000と、購入に踏み切るにはそれ相応の覚悟が必要です。
1%の改善こそがチームスカイの武器
今回の記事では、2018年ツール・ド・フランスで使用された「ピナレロドグマF10」について、その詳細に迫りました。
チームスカイは、レースの勝利のために、「全ての行動において1%の改善に取り組む」といった哲学を打ち立てており、それがチームスカイが使用したバイクからも見て取れました。
高性能なバイクのみならず、その「1%の改善」という哲学こそが、チームスカイの最強の武器であるのかもしれません。