「自転車のブレーキはレバーを握れば当然かかるもの」そんな認識を持っている皆さんがほとんどなのではないでしょうか。
しかし、ブレーキレバーとブレーキシューが「ワイヤー」を介してつながっている以上、ブレーキワイヤーの状態によっては、思うようにブレーキが機能しなかったり、機能してもとても使いづらいものになったりもします。
そこで、今回はブレーキワイヤーへの注油に注目して、より信頼できるブレーキシステムにするための方法をご紹介します。
ブレーキレバーの引きが重い原因のほとんどはワイヤーの汚れ
付け替えた直後はとても軽く引くことができたブレーキレバーが、最近、重くなってきた、と感じたことはないでしょうか?
実は、ブレーキレバーの引きが重くなる原因は、ほとんどの場合ワイヤーの「汚れ」です。
基本的なブレーキケーブルは、「アウターチューブ」「スチールワイヤー」「ポリエチレンライナー」の3層からなるチューブ部分と、実際にその中を走っているブレーキワイヤーによって構成されています。
このポリエチレンライナーと、ブレーキワイヤーの間には常に摩擦が発生し、さらに、鋼線でできたブレーキワイヤーは、潤滑成分がなければポリエチレン樹脂でできたライナーをどんどん削っていってしまいます。
それを防ぐのがブレーキワイヤーに塗られたグリスなのですが、ごのグリスも時とともにゴミやホコリで汚れてしまいます。
こうなるともう、本来の潤滑性能を発揮することはとてもできなくなり、結果としてブレーキレバーの引きが重くなる、という症状が起こるわけです。
これを防ぐ方法は簡単です。
常に、ブレーキワイヤーに新しいグリスが塗られている状態にすればいいわけです。
そのためには、チューブ内を清潔に保ち、ブレーキワイヤーに適切な量のグリスを注油する必要があります。
安全のために!すべての車種でブレーキワイヤーの注油は必要
「私の自転車はママチャリだから、ブレーキワイヤーの注油なんて必要ない」
そんな声は常にありますが、ワイヤーを使ってブレーキシューを作動させている限り、すべての車種の自転車で、ブレーキワイヤーへの注油作業は必要です。
仮に、注油を怠ったらどんなことが起こるのでしょうか?
少しシミュレーションしてみましょう。
まず、グリスが切れてしまっている(あるいは極端に汚れてしまっている)場合、ブレーキワイヤーは直接ライナーと触れ合うことになり、そこに摩擦が発生します。
耐摩耗性に優れたポリエチレンですが、所詮は樹脂(プラスチック)、鋼線でできたワイヤーは糸ノコと同じように、どんどんライナーを削ってしまいます。
ライナーに穴が開くと、次はスチールワイヤーです。
スチールワイヤーは、薄く細長いスチールの板がライナーに巻き付けられた構造になっています。
今度はポリエチレンほど柔らかい素材ではありませんから、ブレーキワイヤーも削れていくことになります。
そして、いずれはブレーキワイヤーを構成している鋼線が破断します。
そうすると、切れた鋼線はチューブ内に拡がりますから、場合によっては鋼線が引っかかり、「動きが渋いなぁ」というレベルではなく、ほとんどレバーを動かせなくなってしまう事態も起こります。
乗車中にこれが起こったら最悪です。
これを防ぐには、ブレーキワイヤーを使っているすべての車種で、ブレーキワイヤーの汚れを落として注油をする以外に方法がありません。
確実かつ簡単にできるブレーキワイヤーに注油する方法とは?
ブレーキワイヤーのクリーニングと注油は、一見面倒臭そうですが、やってみるとそれほど難しい作業ではありません。
半年~1年に一度は、点検も兼ねてやっておきたい作業です。
ぜひ、チャレンジしてみてほしいところですので、方法をご紹介します。
【用意するもの】
・パーツクリーナー
・グリス(シマノ社製デュラエースグリスなど樹脂との相性のいいもの)
・ワイヤーエンドキャップ
・ウェス
・ニッパー(もしくはペンチ)
・アーレンキーやメガネレンチなどワイヤーを外す工具(車種によって違う)
【クリーニング&グリスアップの方法】
・マシンからブレーキケーブルを外す
どこに、どのようにチューブやワイヤーが接続しているかを忘れてしまうと後で困るので、慣れないうちは、携帯などで写真を撮ることをお勧めします。
・ブレーキケーブルからブレーキワイヤーを抜き取り、ウェスで汚れを拭き取る
地面に直接置くと砂やホコリをくっつけてしまうので、ループ状に束ねてウェスの上に置いておきます。
特に、長いリアブレーキのワイヤーは要注意です。
・パーツクリーナーのノズルを挿し込み、チューブ内部に吹き付けて洗浄
チューブの反対側から汚れたクリーナーが噴き出るので、固定する・出口をウェスで押さえるなどして、汚れをまき散らさないように注意しながら、透明な(綺麗な)クリーナーが噴き出るまで続けます。
・ウェスにグリスを1円玉程度取り、ワイヤーをしごくようにしてグリスを塗る
チューブに吹き付けたクリーナーが乾く時間を使いながら作業します。
グリスは少量でも十分効果があるため、ベタベタに塗る必要はありません。
・ブレーキワイヤーをチューブに戻す
ワイヤーエンドのほつれに注意しながら、元のようにワイヤーを戻します。
・ワイヤーのチューブのエンド部分に近いところにだけ、耳かき1杯程度のグリスを塗る
砂やホコリがチューブ内への侵入するのを防ぐために行います。
塗った後、ワイヤーを前後に数回動かすと、チューブ内になじみます。
・ブレーキケーブルをマシンに取り付けて組み上げる
ワイヤーエンドキャップは新しいものに交換して、ニッパーやペンチで噛んで、取り付けます。
ブレーキワイヤーに注油する時の注意点はたった3つだけ!
ブレーキワイヤーに注油する方法は、意外に簡単です。
しかし、うっかりミスにより思うような効果が見込めなくなってしまうばかりか、部品交換するハメに遭うこともあります。
ここでは、ブレーキワイヤーに注油する時の注意点を3つご紹介します。
これだけはぜひ、気を付けたいものです。
・オイルとグリスは混ぜない
過去には「チューブ内部はCRCなどの潤滑油、チューブ入り口はグリスを注油」という手順がいくつか出回っていましたが、これは間違いです。
CRCはパーツクリーナーと同じで、グリスを簡単に溶かしてしまいます。
雨風に濡れることのない、金属対金属の環境であれば、錆を防いでよい仕事をしてくれますが、ブレーキワイヤーはそんなに優しい環境ではありません。
グリス分がすぐに溶けて流失してしまえば、ものの1か月でブレーキレバーが重くなってきます。
また、CRCは雨で簡単に流れてしまいますし、ポリエチレンライナーも侵食してしまいますので、使用してはいけません。
・ワイヤーを曲げない
初心者がよくやってしまいがちなミスに、ワイヤーの折り曲げがあります。
折り曲げようとしているのではなく、もつれたワイヤーを直そうとして引っ張ることで、折れてしまうのです。
折れてしまったワイヤーは、ライナー内で常にこすれてしまうため、引きが重くなる原因にもなってしまいます。
折れた場所によっては、最悪の場合、部品交換するはめになってしまうので、特に注意しましょう。
・「下の凸」にチューブをセットしない
マシンにブレーキワイヤーを通す時、チューブが「下に凸(チューブの入口よりもチューブ中心が下がった)」の状態になると、チューブ内に水が溜まることがあります。
チューブの端はすぐに水分が蒸発するのですが、センターに近づくほど乾きにくくなり、錆びてしまう原因になります。
なるべく「下の凸」のセッティングは避けましょう。
チューブの取り付け位置を微調整することでクリアできますが、場合によってはチューブやワイヤーを切る加工が必要かもしれません。
ブレーキワイヤーを長持ちさせるために普段から注油しよう!
「チューブ内部は日に当たることもなく、風雨にさらされることもないし、ホコリも入ってこない。」
そう考えるのは間違いです。
確かに日が当たることはありませんが、熱は伝わりますし、しっかりチューブのエンドを処理しておかないと、簡単に水分が入り込みます。
さらにホコリは、チューブの端からだけでなく、チューブそのものからも発生します。
また、特に夏場などグリスが解けて流れてしまうこともありますから、時々注油は必要です。
ただし、普段のメンテナンスにおけるブレーキワイヤーへの注油は、先にご紹介したほどしっかりしたものでなくても、以下の方法だけでも十分です。
【普段のメンテナンスにおける注油方法】
・ブレーキワイヤーを留めているボルトを緩め、レバー側にひっかけてある「タイコ(太鼓、ワイヤーエンドの丸い部分)」を外す
・そのままワイヤーを5cmほど引き出し、出てきた部分各所にグリスを塗る
・今度は反対に、ブレーキシュー側にワイヤーを引っ張り、出てきた部分各所にグリスを塗る
・タイコを元通り引っかけ、ボルトを締め直したら何度かレバーを引いてグリスをなじませる
・はみ出した余計なグリスはウェスで拭き取る
すぐには効果を実感できないかと思いますが、次第になじんできますし、チューブに湿気が入るのを防ぐ効果も回復します。
月に一度程度のグリスアップで十分ですので、メンテナンスの際には忘れずに面倒を見てあげましょう。
構造が同じなら方法も同じ!シフトワイヤーにもこまめに注油
自転車において、ブレーキケーブルと同じような構造を持っている別の箇所に、シフトケーブルがあります。
ブレーキケーブルほど大きな力が加わらないため、ブレーキワイヤーよりも少し細いワイヤーを使うのが一般的ですが、構造は全く同じです。
特にチューブは、新車の場合、ブレーキのものと同じものが使われていることもあるほどです。
構造が同じなら、メンテナンスの方法も同じです。
競技の種目によっては、シフトワイヤーはブレーキワイヤーほどこまめに動かすものではないかもしれません。
しかし、シフトワイヤーの動きが渋いせいで、ギヤがガタガタ鳴ってイラついた経験は、誰にでもありますよね?
あの「イラッ!」をなくすためにも、ブレーキワイヤーと同じようにシフトワイヤーにも注油をしておきましょう。
マシンの正しいグリスアップは走りの実力アップへの必須条件
ブレーキワイヤーの不調のせいでレバーが重かったりすると、それだけでストレスになり、走りの本来の実力も発揮できなくなってしまいます。
また、ツーリングなど、レースではない環境であっても、ブレーキに不安のあるマシンでは、安心して脚を回せません。
ブレーキワイヤーに正しく注油する方法をマスターして、「しっかり走り、確実に停まれる」マシンを目指しましょう。