自動車では、一般的な「トーイン」という用語ですが、自転車用語としても使われています。
ただし、自動車のトーインがタイヤの内減りを防止するのに対して、自転車でのトーインとは、ブレーキシューの取り付け角度の調整という違いがあります。
自転車のトーインの意味や方法、さらに、実はトーインには効果がないかもしれない?といった、自転車のトーインにまつわるさまざまなトピックをご紹介していきます。
自動車はトーインで内減りを防止
トーイン(toe-in)とは、もともと自動車でよく使われる用語です。
進行方向に対して、タイヤの前側が内側を向いていることを表します。
人間で言えば「つま先(toe)」が「内側に閉じた(=in)」状態です。
簡単に言えば「内股」のような状態ですね。
自動車の場合、トーインにしないと、走っている内にどんどんタイヤが、外側に開いていってしまうのです。
これを防ぐために、停止している状態では、トーインになるようにタイヤの角度を設定しているのです。
もちろん、内側にタイヤを向けるといっても、微妙な角度なので、私たちが見ても気が付かない程度のレベルです。
近年は、自動車の高性能化に伴って、タイヤの扁平率が低くなりました。
そのため、トーインにしないと、タイヤの内減りが一気に進んでしまいます。
ちなみに、扁平率とは「タイヤの幅に対する高さの割合」です。
扁平率が低くなるほど、一般的には高性能なタイヤとされています。
では、前後2輪の自転車で「トーインにする」とは、どういった調整のことをいうのでしょうか?
自転車でのトーインは内減り防止のためではない
もともと自転車は、よほど取り付けに不具合でもない限り、自動車のようにタイヤが内減りすることはありません。
タイヤの内側・外側のどちらかが、極端に減ってしまうような状態では、普通にまっすぐ走行するのも困難になってきます。
そのため、自転車のタイヤは、内減りすることがないと言えるでしょう。
また、自転車のタイヤを自動車で言うトーインの状態にすると、タイヤの角度が微量に変わってしまうことから、当然ですがまっすぐに走らなくなってしまいます。
では、自転車の「トーイン」とは、どういった状態なのでしょうか。
それは、ホイールに対しての「ブレーキシューの角度」のことです。
詳しく言うと、ロードバイクに多く採用されている、キャリパー式のブレーキでブレーキシューを取り付ける際に、角度を付けることです。
自転車を真上から見て、ホイールの両側にくるブレーキシューの角度が、漢字の「ハの字」になっているのが「トーイン」です。
逆に、前側が開くように調整するのはトーアウト(toe-out)となるはずですが、特にメリットはないことから、自転車でトーアウトにすることは基本的にはありません。
トーインの効果は?
自転車でトーインにするのは、タイヤの内減り防止のためではなく、ブレーキ鳴きの防止と、安定したブレーキ性能を確保するためです。
ブレーキをかけた際、キャリパーがブレーキシューを押して、ホイールのリムを抑えつけることで、自転車は減速します。
この時、ブレーキを支えるキャリパーと、ブレーキシューが「しなる」ことによって、ホイールの回転に引きずられて、前側にブレーキシューが引き込まれていく現象が起こります。
そうすると、ブレーキシューがホイールに均一に当たらないことから、制動力が落ちたり、ブレーキ鳴きの原因となったりするのです。
キャリパー式を採用するロードバイクで、トーインが設定されるようになったのは、比較的最近の話ですが、MTBでよく使われているVブレーキでは、以前から一般的に行われていました。
ロードバイクでは、7800デュラエースから、シマノが取り入れたと言われています。
今では、手軽なセッティング方法として、ポピュラーな存在になりました。
トーインにできない自転車もある
もともと自転車のブレーキは、非常に単純な構造なので、トーインの調整自体も、特段難しい作業ではありません。
ただし、ディスカウントストアなどで販売されているような「安価な軽快車(ママチャリ)」では、トーイン調整ができない構造になっている場合もあるので要注意です。
また、トーインはキャリパー式のブレーキで行う調整のため、最近増えてきたディスクブレーキでは、トーインで内減りを防止する、という考え方自体がありません。
ディスクブレーキは、ホイールについたローターと呼ばれる円盤(ディスク)を、ブレーキパッドで挟みこむことで、制動力を得る方式です。
ディスクが放熱板の役割を果たすことから、強いブレーキングを繰り返しても、比較的制動力が落ちにくかったり、雨の際にも十分な制動力を得られるといった特徴があります。
ブレーキパッドが、ローターをしっかり挟み込むように取り付けないと、ブレーキ鳴きの原因になってしまったり、十分な制動力が得られなくなってしまいます。
プロの自転車レースにおいては、ディスクブレーキは、まだまだ少数派です。
これは、転倒時に凶器となりうる、ディスクブレーキのローターの「危険性」「整備性の悪さ」「重量増加を嫌う選手・チームも多い」ということが、理由として挙げられています。
その一方、市販車では、ロードバイクでも採用例が増えてきており、ジャイアントのように積極的にラインナップに加えてきているメーカーもあります。
シマノでもデュラエース、アルテグラ及び105、といった上級グレード~中級グレードのコンポーネントには、すでにディスクブレーキ用を揃えています。
2017年の、アルテグラのフルモデルチェンジにあたっても、シマノはほぼ同じタイミングで、ディスクブレーキ仕様もモデルチェンジすることをアナウンスしています。
これまでディスクブレーキには、ロードバイクに使用するには「制動力が強すぎる」といった意見もありました。
しかし、雨の日でも安定して減速できることや、強力な制動力、といったディスクブレーキの長所を支持するライダーも増えています。
また、自動車やオートバイといった他の乗り物では、むしろディスクブレーキの採用の方が、当たり前となっているのが現状です。
それを考えれば、自転車でも、これからはディスクブレーキの普及が一気に進んでいく可能性は十分にあるものと考えられます。
そうなると、トーイン自体も、過去の自転車用語になってしまうかもしれませんね。
トーインのつけ方
自転車でトーインにするのは、それほど難しくはありません。
専用の工具も販売されていますが、実は、プラ板や、紙など必要な厚みを持つものであれば、なんでも代用は可能です。
まず始めに、ブレーキシューを固定している6角ボルトを、アーレンキーで少しゆるめます。
6角ボルトを一気にゆるめてしまうと、調整が難しくなるので、慎重に行いましょう。
そのあと、ブレーキシューの後ろ側と、ホイールのすき間に適度な厚さのプラ板や紙を挟んでから、また6角ボルトを適切なトルクで締ていくだけです。
この時、一気にボルトを締めずに、一度ブレーキレバーを握って、ブレーキシューの上下が均一にホイールに当たっているか、を確認してから締め付けていきましょう。
しっかり当たっていないと、ブレーキシューの内減りや異音の原因にもなります。
なお、シマノでは、ホイールとブレーキシューのすき間は0.5㎜と指定していますが、そこまで厳密でなくとも、ブレーキ鳴きが防げる程度のすき間があれば十分です。
ロードバイクでは内減り防止のためのトーイン調整は不要?
実は、ロードバイクのブレーキに、「トーイン調整はいらない」という意見もあります。
その理由として、現在はパーツの進化が進み、ブレーキキャリパーや、ブレーキシューの剛性が、以前とは比較にならないほど向上していることが挙げられています。
このため、あえてトーイン調整しなくても、ブレーキ時にキャリパーやブレーキシューに、たわみが生じることはない、という理由によるものです。
逆に、トーインにすることで、ブレーキシューのあたりが均一でなくなり内減りするなど、実害の方が大きいとまで言う方もいます。
このよう、に賛否両論あるトーインですが、まずは、一度自分で試してみるのが一番確実でしょう。
ブレーキの調整となると、身構えてしまう方も多いのですが、やってみると意外と簡単です。
トーインに限らず、ブレーキの調整は、一度自分でチャレンジしておいた方が、後々にも役に立つのでおすすめです。
動画サイトでも、手順を示した動画が多数アップされていますし、不安があれば、最初は専門店で手順をしっかり観察したり、ブレーキシューの交換のついでに教えてもらうのもよいでしょう。
トーインは必要?不要?迷ったら自分で確かめてみよう
いかがでしたでしょうか。
トーインについては、本当に賛否両論で、「効果がある」、「全く効果がない」という両方の意見があり、どちらもそれなりに十分説得力があるので、迷ってしまっても仕方がないでしょう。
ブレーキに限らず、複雑そうに見えて意外にシンプルなのが、自転車のセッティングです。
迷ってどちらを信じたらいいのかは、まず、自分の手を動かして確かめてみる、というのが最善の方法かもしれませんね。