自転車の油圧ブレーキから確実にエア抜きするメソッドを紹介

自転車の中でも特にMTBでは、ディスクブレーキの使用が一般的になってきています。

中でも、ある程度MTBの上級者になると、同じディスクブレーキでも油圧ブレーキの導入が検討されるのではないでしょうか?

圧倒的な性能を誇る油圧ディスクブレーキですが、どうしてもメンテナンスにはそれなりの手間がかかります。

そこで、今回はエア抜きにスポットを当てて、油圧ブレーキのメンテナンス方法をご紹介してます。

自転車に敢えて構造が複雑な油圧ブレーキを使うメリットとは

自動車やオートバイの間では、油圧ディスクブレーキの使用はすでに一般的です。

機械式のディスクブレーキに比べたら、油圧ディスクブレーキはどうしても構造が複雑ですが、それでも、油圧ブレーキが自転車の世界にも浸透してきました。

なぜでしょうか?

まず、ディスクブレーキには「ストッピングパワー(制動力)が強い」「マッド・ウェットな条件下でも制動力がキープできる」など、Vブレーキでは得られないメリットがあります。

そして、油圧ブレーキへの需要があるのは、機械式ディスクブレーキでは得られない以下のメリットがあるからです。

・軽いタッチでしっかり制動力が得られる

機械式ブレーキの場合、パッドとレバーはワイヤーで連結されています。

そのため、ワイヤーとワイヤーカバーの間の摩擦は消すことができません。

この摩擦が「握りづらさ」「手の疲れ」につながり、特に手が小さいライダーにとっては致命的な欠点だったわけです。

これに対し、油圧ブレーキは「パスカルの原理」を利用しています。

後で詳しくご説明しますが、この原理があるために、軽いタッチでしっかりブレーキパッドを動かすことができるようになりました。

・両側からパッドが挟まることで、ダイレクト感に大きな差が出る

機械式ディスクブレーキはキャリパー内にある片側のパッドが動いて、ディスクを反対側のパッドに押し付けることで制動力を生んでいます。

そのため、パッドがディスクに当たってから反対のパッドに当たるまでは制動力は得られません。

このタイムラグがダイレクト感のなさを生んでいました。

しかし、油圧ブレーキは両側から同時にディスクを押さえて制動力を得るため、このタイムラグがほとんどありません。

そのため、機械式では得られない、圧倒的なダイレクト感があるわけです。

結果、オイル交換やエア抜きなどメンテナンスの大変さを差し引いても、油圧ブレーキは支持されることになりました。

危険!油圧ブレーキのエア抜きを怠ると自転車は?

抜群の性能ゆえに上級ライダーに支持されている自転車の油圧ブレーキですが、正直なところメンテナンス、特にオイル交換(もしくは継ぎ足し)とエア抜きは面倒な作業です。

しかし、これを怠ると、大変な事態を招くことになります。

先に述べたように、自転車の油圧ブレーキは「パスカルの原理」に従って作動します。

「密閉容器中の液体は、容器の形状に関係なく一点に受けた圧力を、同じ強さで他のすべての部分に伝える。」という原理です。

これが、ブレーキングのダイレクト感とグリップの軽さを生み出しています。

このブレーキシステムでは、ブレーキレバーからオイルチューブ、キャリパーのピストンまでの空間(オイルライン)は密閉され、ブレーキオイルが満たされています。

ここがパスカルの原理で言う「密閉容器」です。

それゆえ、この原理に従ってブレーキレバーで生まれた圧力が、ピストンにダイレクトに伝わることになります。

しかし、このブレーキオイルは時とともに気化し、あるいは連結部から少しずつ漏れ出し、最終的には、密閉されていた空間に「隙間(気泡)」が発生することになります。

「容器」が密閉されているため、この気泡にも圧力は当然かかります。

同時に、気体は液体に比べて、とても圧縮しやすい性質を持っています。

そのため、オイルラインに気泡が発生していると、ブレーキパッドに伝わるべき圧力が気泡を圧縮するために使われてしまうことになります。

その結果、ブレーキレバーをどれだけ握りこんでもスカスカになってしまい、制動力が全く得られないという事態が発生します。

どんな乗り物であっても、ブレーキが利かないというのは最悪です。

そのため、油圧ブレーキの運用には、自転車のメンテナンス、特にエア抜きのスキルが不可欠です。

「あれっ?」と思った時が油圧ブレーキのエア抜きタイミング

クオリティの高い制動力が得られる反面、メンテナンスが面倒な油圧ブレーキですが、メンテナンスは、どのくらいの頻度で行ったら良いのでしょうか?

「1か月?、半年?、1年ごと……?」

実は、何もなければ2~3年に1回で十分です。

気泡の発生はブレーキオイルの劣化・漏れ・気化が主な原因ですが、幸い、それほど簡単にこれらの事態は起こりません。

2~3年に1回のペースでブレーキレバーやキャリパー自体を交換してしまうような人であれば、実際のところ、ほとんどメンテナンスフリーです。

しかし、ダートな路面をMTBで走っていると、ブレーキホースが倒木に引っかかって抜けたり、転倒・落車してブレーキレバーを地面に強打したりと、トラブルが起こることは多々あります。

また、最近のモデルでは減ってきましたが、倒立させて置いたりした際にリザーバータンクの空気がオイルライン内に入ってしまうことも起こりえます。

そうなったときに困らないよう、自分でエア抜きできるスキルは、必ず身に付けておきましょう。

たとえトラブルに見舞われなくても、暑い時期に自転車を屋外に放置したりするとオイルが温まり、熱膨張によって体積が増えて漏れ出したり、気化して気泡が発生することはあります。

そのような場合は急にブレーキが利かなくなるのではなく、例えば、いつものダイレクト感が失われたり、利きが悪くなるなどの「兆候」が現れ始めます。

見分けやすいのは左右のブレーキのフィーリングの差です。

「右(フロント)はいつも通りなのに、左(リア)はイマイチふにゃふにゃしている気がするな……。」

こういった現象が起きた場合は気泡が発生しているので、すぐにブレーキオイルの注ぎ足し、あるいはエア抜きの処置が必要です。

油圧ブレーキのオイル交換&エア抜き実践編【事前準備編】

それでは、実際に自転車の油圧ブレーキのメンテナンス方法のご紹介に入ります。

慣れれば10分ほどで終わる作業ですが、手順が多いので、まずは「事前準備」までをご紹介します。

なお、各社様々な油圧ディスクブレーキを開発していますが、構造や機能自体はあまり差がないので、シマノ社製の自転車油圧ブレーキのエア抜きを参考に話を進めていきます。

(ただし、他社製品は「じょうご」がなく「リザーバータンク」のふたを開けてじょうごのように扱い作業することが多いので、必要な場合は適宜対応してください。)

【用意するもの】

・3mmアーレンキー(六角レンチ)
・じょうご(付属のもの)
・ホース(外径6mm 付属のもの)
・シマノ社純正ミネラルオイル(ブレーキオイル)
・ブリーディングスペーサー(付属のもの)
・ピストン(容量30ml程度 内径4mmのホースが付けられるもの)
・廃油受け用ビニル袋(透明だと排出量などが分かり作業がラク)
・輪ゴム数本

【事前準備作業】

・ブレーキレバーを緩め、水平になるよう向きを変えて固定する

(ハンドルバーが左右にも動かないよう固定)

(ハンドルバーごと外して、本棚など高さのあるものに、水平になるようにガムテープなどで固定してしまってもよい)

・ブレーキレバーのブリードスクリューを取り外し、じょうごをセットする

(じょうごが斜めになる場合はブレーキレバーが水平でない)

・キャリパーを外し、ブレーキホースでぶら下げる

・ブレーキパッドとスペーサーを外し、ブリーディングスペーサーを挟み込む

・ブリードボス(旧称:ブリードニップル)キャップを外し、ミネラルオイルを入れたピストンにホースを付け、さらにブリードボスにつなぐ

ここまでが事前準備です。

準備ができたら、いよいよ実際のエア抜き作業に入りましょう。

油圧ブレーキのオイル交換&エア抜き実践編【作業工程編】

じょうごにブレーキオイルが溜まっていますが、基本的にはキャリパー側からオイルの出し入れを行います。

ただし、じょうご内のオイルがなくなってしまうと空気がブレーキホース内に入ってしまうので、常にじょうご内のオイルの量に気を配り、足りなくなりそうならば、注ぎ足しましょう。

【オイル交換作業① ブレーキホース内のエア抜き】

・アーレンキーでキャリパーのブリードスクリューを1/8だけ緩め、ピストンを押してオイルをキャリパー内に送り込む

(上のじょうごから気泡とオイルが出てくる)

・気泡が混ざらなくなったらブリードスクリューを締めて、ブリードボスをいったん閉じる

【オイル交換作業② キャリパー内のエア抜き】

・ホースに廃油受け用のビニル袋を輪ゴムでくくり付けて、ブリードボスに再度つなぐ

・ブリードスクリューを緩める

(キャリパー内に残った気泡を廃油とともに排出された際に、キャリパー自体を少し傾けたりドライバーの柄などで軽く叩くと、効率的にエア抜きができる)

・ブリードボスから気泡が出なくなったら、もう一度ブリードスクリューを締める

【オイル交換作業③ 当たり出しと仕上げ作業】

・ブレーキレバーを握った状態でキャリパーのブリードスクリューを一瞬だけ、0.5秒間隔で数回開ける

(キャリパー内とブレーキホース内の気泡が完全に排出される)

・じょうごに気泡が上がってこなくなったらブレーキレバーを当たり位置まで握り込む

(上手くいっていれば、このときレバー当たりが固くなる)

・ブレーキレバーの取り付けを緩めてレバーを30°ほど上下に傾け、ブレーキレバー内にあるリザーバータンクの気泡を排出する

(じょうごに気泡が出てこなくなるまで続ける)

・じょうごの底にオイルストッパーを挿して栓をしたらじょうごを取り外し、ブリードスクリューをOリングを付けた状態で締め込む

(オイルがあふれ出るが気にしない)

・キャリパーに挟んでいたブリーディングスペーサーを外し、ブレーキパッドとパッドスペーサーを戻してから、ブレーキを握って動作に異常がないか確認する

自転車の動作に問題がないようでしたら、あふれたオイルを拭き取り、キャリパーやブレーキレバーをもとに戻して、油圧ブレーキとして機能するように再度組み上げます。

自転車の油圧ブレーキからエア抜きする際に注意すべき3つのポイント

自転車の油圧ブレーキは、ブレーキホースやキャリパーの中にほんの少しのエアが入っているだけで、ブレーキとしての性能はガタ落ちしてしまいます。

それを防ぐためには、以下の3点に注意してエア抜きするようにすると、油圧ブレーキ本来の能力が発揮されます。

【ポイント① オイルは高価だがケチらない】

ブレーキシステム内に入れるミネラルオイルは50mlボトルで1,000円ほどします。

正直に言って高価です。

しかし、それなりのクオリティであることは確かです。

代替品(他社製のブレーキオイル)も出回っていますが、オイルどおしが干渉しあって劣化する可能性もあります。

必ず、指定された純正オイルを使うようにしましょう。

【ポイント② 新旧のオイルが混ざるのは気にしなくて良い】

オイルそのものが劣化して気泡が発生することは極々まれなので、純正オイルを使っていれば、新旧のオイルが混ざってしまうのは、それほど気にしなくても大丈夫です。

問題なのは、古いオイルが明らかに劣化してくすんでいたり、金属粉が混じっているような場合、あるいは他社製のオイルに切り替える場合です。

これらの場合は一度オイルをすべて抜き取って、新しいオイルでブレーキホースやキャリパー内(オイルライン)を完全に洗浄した後で、新しいオイルを入れる必要があります。

【ポイント③ ブレーキパッドとローターには絶対オイルを付けない】

ブレーキレバーのブリードスクリューを締める際、どうしてもオイルがあふれ出してハンドルやフレームにかかってしまいます。

しかし、これらのパーツは洗ったり拭き取ったりすれば、それほど問題ありません。

オイルが付いてしまって困るのは、ブレーキングに直接関係のあるブレーキローターとパッドです。

ローターはともかく、ブレーキパッドは一度油が染みてしまうと、完全に洗うのは難しく、使用不能になってしまいます。

横着しないで必ずブレーキパッドを外し、ブリーディングスペーサーを挟むようにしましょう。

上級者だからこそハンドルまわりメンテナンスは自分でやろう

作業工程が多いので、慣れないと自転車油圧ブレーキのエア抜きは時間がかかるかもしれません。

しかし、マシンのブレーキングは、上級者だからこそ走りと同じくらい「こだわりたい部分」ではないでしょうか。

また、ブレーキはライダーの安全を確保するためのパーツです。

できれば、他人任せにせず、自分でメンテナンスできるようにしておきたいところです。

何度か練習して、自分のものにしておきましょう。