自転車に乗るとき、車体と人体は「手」「足」「尻」の三つの箇所でつながっています。
特に、地面からの衝撃が大きいマウンテンバイクでは、そこにかかる衝撃をどれだけ受け逃がしつつ、脚を回せるかが、レースの勝敗を分けるカギになります。
最も衝撃に対して耐性がないのが「手」で、ハンドルの高さや取り付け角度のベストなポジションが出ていないと、扱いづらいばかりか手首の故障の原因になります。
今回は、マウンテンバイクのハンドルの高さをベストな位置に決める基準についてご紹介します。
マウンテンバイクのハンドルは三点調整法だけでは決まらない
はじめに、自転車のポジション決めをするときにまず行う、三点調整法についておさらいしましょう。
【三点調整法の手順】
・一番下まで下げたペダルをかかとで踏み、膝が軽く曲がる位置にサドルの高さを合わせる。
・足が90°に曲がる位置にペダルを引き上げ、膝の真下にペダルが来るようにサドルの前後を合わせる。
・クランクシャフト(BB)~サドル座面+3cm程度の位置にハンドルグリップの前後を合わせる。
この調整法は、自転車屋さんで新車を買ったときなどに、一度は経験しているのではないでしょうか?
しかし、ご存知のとおり、これはマウンテンバイク専用のセッティングではありません。
実際に乗り慣れてきても、このポジションがベストだと思う人は少ないのではないでしょうか?
理由は簡単です。
この調整法は股下の長さ(脚の長さ)は考慮されているものの、ハンドルバーの高さ・長さ・上半身や腕の長さは、まるで考えられていないからです。
ただ、全く役に立たないかと言えばそんなことは決してなく、「大まかな位置決め」としては十分に機能します。
実際、ママチャリなどのセッティングであれば三点調整法だけで十分です。
しかし、ここでご紹介しているのはあくまでもマウンテンバイクです。
そのため、マウンテンバイクのハンドルの高さ調整は、これとは別に行わなければなりません。
マウンテンバイクのハンドルはステムとスペーサーで高さ調整
それではいよいよマウンテンバイクにおけるハンドルの高さの調整方法です。
最近の自転車は、フロントフォークから伸びるステアリングコラムを、直接ハンドルにつながるステムで締めこんで固定する形が一般的です。
そのため、ステムとヘッドパーツのネジを緩めるだけで簡単にフォークを外すことができます。
ただ、ネジを緩めた状態でフレーム(車体)を持ち上げると前輪を含むフォーク自体が抜け落ちてしまうことがあるので注意が必要です。
さて、ヘッドパーツのふたを外してステムのネジを緩めると、ハンドルを外すことができます。
すると、幅の違うリング状のスペーサーがいくつか取り外せるのではないでしょうか?
マウンテンバイクのハンドルは、このスペーサーの噛ませ順を変えることで高さを調整します。
もし、幅5mm程度の薄いスペーサーが入っているならば、噛ませ順によって5mm単位の調整が可能になります。
また、同じ幅のものが複数枚ある場合は、何枚をステムの下に噛ませるかによってハンドルの高さが変えられます。
試してみたいハンドルの高さが決まったら、ヘッドパーツとステムのボルトを締め直して完成です。
難しそうに見えて、慣れてしまえば1セット5分もあればできてしまうような簡単な調整です。
唯一の難関は、ステムを締め直したときに、その性質上ハンドルの向きが微妙にずれてしまうことでしょうか。
左右どちらに、どのくらいずれるのかハンドルのクセを見極めて、締め始める前にずれてしまう分を見越しておくことが大切です。
マウンテンバイクは「ラクに扱える高さ」のハンドルを目指す
マウンテンバイクに限らない話ですが、ハンドルの高さを調整する一番の目的は「ハンドルをラクに扱えるようにすること」です。
マウンテンバイクのハンドルを高くするか、低くするかのメリット・デメリットについては、後でお伝えすることにして、まずは取り回しです。
例えば、自転車はその性質上、脚を回すたびにハンドルと膝が近くに来ることになります。
そこで、ハンドルをあまりに低くセットすると、どうなるでしょうか?
ハンドルをまっすぐ前に向けている状態で、ハンドルに膝がぶつかることは、そうそうありません。
しかし、競技種目によってはハンドルを激しく動かすこともあります。
最低限、使用するギリギリまでハンドルを回したときに、脚がハンドルに干渉しない高さにしなければなりません。
特にマウンテンバイクの場合は、ハンドルバーが長いので、旋回範囲も大きくなります。
また、よく陥りがちなのが「高くすれば(低くすれば)より取り回しが良くなる」と信じ込んで一気に調整してしまい、その後の微調整を怠るという失敗です。
一気に動かしてしまうと確かに乗り味ははっきりと変わります。
そのため、「うん、良くなった」と錯覚しがちです。
しかし、しばらく乗り込んでみないと本当の良し悪しは分かりません。
なので、大まかに調整できたら数日間乗ってみて、そこから先は少しずつ微調整していくようにしましょう。
「おっ、来たかな?」と思ったら少し乗り込んで、もう5mmだけ下げて(あるいは上げて)いくと良いでしょう。
ハンドルの高さを変えるときに考える上げる効果と下げる効果
基本的なマウンテンバイクのポジションとしては、サドルの座面とハンドルが同じ高さになるのが良いとされます。
しかし、ハンドルを上げたり下げたりすると、それによってさまざまな効果が生まれ、場合によってはより乗りやすいマシンになるかもしれません。
まずはハンドルの高さを上げる場合です。
ハンドルが高くなると、それにしたがって上体が起きてきます。
上体が寝ているときと比べて重心は後ろに下がり、背筋や腕への負担が減る効果があるため、乗っていてラクな姿勢になります。
ツーリングの後半など、疲労が溜まってきたときに試してみてほしいポジションです。
反対に脚を回そうと思うと、体重を乗せて脚を突き出す動作がしづらくなるため、スピードを出したいときには不向きです。
今度はハンドルの高さを下げる場合です。
ハンドルを下げると、今度は上体が寝て、より水平に近づきます。
上体が起きているときと比較して、重心が前に出てくるので、ここ一番、脚を回さなければならないときなどには大きなパワーを生み出すことができます。
ただ、体重を上半身で支える割合が高くなるので、長時間この姿勢を保つのは大変になります。
特にマウンテンバイクは、細かなハンドリングが多い乗り物なので、あまり手に体重は乗せていたくないですね。
痛ければ上に!跳ねるなら下に!症状別のハンドルポジション
マウンテンバイクのハンドルの高さは、乗りやすさや求める効果によって変わってきますが、それだけではなく特定のネガティブ要素を打ち消すために変えることもあります。
例えば、マウンテンバイクに乗っていて、手のひらにかかる衝撃が受け流しきれず、レースが終わるころには両手がガクガクになってしまう、というような場合です。
短期決戦の勝負で、それも一日に一本しかレースが行われないような競技であればかまいませんが、予選と決勝に分かれているような場合、これでは困りますね。
そんなときは、少しだけハンドルを上げてみてください。
それだけで手のひらへの負担は軽くなり、連戦に強いマシンにすることができます。
反対にダートなコースで、ちょっとした段差でフロントが跳ねてしまうような場合はどうでしょうか。
その場合は、ハンドルバーや、フロントフォークをカーボン素材に変えたりすると、驚くくらいマシンの挙動が変わります。
また、何でもなかった段差で、前輪がポンポン跳ね上がってしまうこともよく起こります。
そんなときは、ハンドルを少しだけ下げてみてください。
体重が上体に乗る分、跳ね上がりを抑え込むことができ、ハンドリングがしやすくなります。
このように、場面場面で乗りやすいハンドルの高さに合わせることで、より乗りやすく、疲れにくいマシンにすることができます。
長時間乗れなかったり、マシンの挙動がおかしいといった症状があるときは、ハンドルの高さを見直してみましょう。
ベストなポジションはハンドルの高さと向き&サドルで決まる
今回はハンドルの高さをメインにお伝えしていますが、マウンテンバイクのベストなポジションはハンドルの高さだけで決まるものではありません。
実際にはハンドルの高さに加え、ハンドルバーの取り付け向き、さらにサドルの高さや前後の位置などによって細かく調整します。
例えばハンドルを上げると上体が起きる分、重心は高くなります。
ただ、重心が高くなるとマシンとしての安定性は下がってしまうため、扱いづらくなってしまうこともあります。
そのようなときは、ハンドルを上げるのではなく、サドルを下げることで重心を上げずに上体を起こすことができます(ただし、今度は座った状態でのペダリングに影響が出ます)。
特に、マウンテンバイクの競技では足を地面に着くことも多いので、あまりサドルが高いセッティングはおすすめできません。
その意味でも、ハンドルの高さだけに頼るのではなく、ハンドルとサドル、双方でセッティングを決めていきたいところです。
また、ハンドルバーの向きを変えることでもハンドルの高さは微調整できます。
もっとも、手首が不自然にねじれる向きでは、そもそも握りづらくなってしまうので限界がありますが、なんとなく雰囲気を変えたいときなどには有効です。
ただし、ハンドルバーの向きにブレーキやシフトのレバーは影響されて、使いやすさは劇的に変化するので、違和感なく操作できる場所にそれらのレバーを直す必要があります。
工具一つでできるハンドルの高さ調整はメカニックへの第一歩
マウンテンバイクの場合、ハンドルの高さ調整は「アーレンキー(俗に言う六角棒や六角レンチ)」があればできてしまいます。
ハンドルの高さが決まって、ポジションが出たときの達成感はなかなか大きなものになります。
一度味わってしまうと、「他にもイジれるところはないかな?」なんて思い始めてしまうほどです。
自分のマシンを自らメンテナンスできるのは、とても素晴らしいことですので、マウンテンバイクを愛するのであればぜひ一度、挑戦してみてほしいところです。