カンチブレーキは他のブレーキに比べ調整方法がやや複雑であると同時に、制動力があまり強くないなど、他のブレーキと比べ劣る点が多く、現在は主流ではなくなりつつあると言えます。
しかし、カンチブレーキにしかない魅力もあり、いまだに根強い人気を持つブレーキの種類でもあります。
今回はそんなカンチブレーキについて、調整方法や構造などをご紹介していきます。
カンチブレーキとは?構造やその特徴
カンチブレーキは、かつて多くのマウンテンバイクやランドナーなどで使用されていたブレーキです。
構造としては、ブレーキ本体、チドリ、アーチワイヤー、ブレーキシューの4つで構成されています。
その仕組みは、ブレーキレバーを引くとチドリが引かれ、チドリに繋がったアーチワイヤーがブレーキアームを稼働させて、ブレーキシューによってリムを挟み込み制動力を得ます。
現在は、カンチブレーキよりも制動力が強く調整方法の分かりやすい、Vブレーキやディスクブレーキの台頭によって、主流のブレーキではなくなりつつあります。
しかし、構造的な泥詰まりのしにくさ、ロードバイクのブレーキレバーで稼働させられる、といったメリットを持っており、今でも一部のランドナーやシクロクロス車では使われているブレーキです。
今回、お話しする調整方法に関して言えば、カンチブレーキはVブレーキやディスクブレーキといった他のブレーキに比べて、調整箇所が多い点で複雑なブレーキです。
そのため、ご自身で調整できる自信がない場合は、プロショップに持ち込むのが確実な方法と言えます。
カンチブレーキの調整方法①「シューの位置」
この作業には、「アーレンキー」と「スパナ」を使います。
ここでは、ブレーキシューを「正しい位置」へと調整する方法をご紹介するのですが、「正しい位置」とは、ブレーキを掛けたとき、リムからブレーキシューがはみ出さず、かつリムと平行になっている位置を指します。
ブレーキシューが正しい位置にない場合、位置が上過ぎるとブレーキを掛けた際にタイヤと擦れてタイヤを痛める、位置が下過ぎると制動力が発揮されない、などのリスクがあります。
まず、始めに、スパナとアーレンキーでブレーキシューの台座とブレーキシューを留めるナットを緩めます。
これによって、ブレーキシューの台座とブレーキシューが自由に稼働するようにします。
この状態から、先ほどお伝えした「正しい位置」にブレーキシューが固定されるよう、台座を動かして調整します。
正しい位置を見つけたら、ブレーキシュー、並びにブレーキシュー台座をスパナで固定します。
Vブレーキの場合はブレーキシューのネジを緩めるのみの調整方法であるのに対し、カンチブレーキの場合はブレーキシュー、そしてブレーキシュー台座の位置を調整しなければならず、やや手間が掛かると言えます。
カンチブレーキの調整方法②「レバーの引きしろ」
カンチブレーキはアジャスターを使うことによってワイヤーの張りを調整しブレーキレバーの引きしろを調整することができます。
この調整は、ブレーキシューがすり減って新品時よりも薄くなった時などに、十分な制動力を維持するために行う調整です。
しかし、アジャスターを用いた引きしろの調整は、あくまでも調整に過ぎません。
そのため、ブレーキシューが薄くなった場合は、ブレーキシューのゴム部分の台座である金属部分が露出し、リムをこすって傷つけてしまう前に、ブレーキシューを交換したほうが良いでしょう。
カンチブレーキのブレーキシュー交換については、後程ご紹介します。
さて、アジャスターは、フォークコラム上にコラムスペーサーなどと同じように取り付けられています。
その具体的な調整方法は、次の通りです。
アジャスターのネジを反時計回りに回すと、ワイヤーがネジの浮いた分のみ引っ張られて、ブレーキレバーの可動域は小さくなります。
逆に、アジャスターのネジを時計回りに回しネジをねじ込むと、ネジの沈んだ分、ワイヤーが緩められブレーキレバーの可動域は大きくなります。
注意点として、アジャスターのネジを反時計回り、つまりワイヤーを引く方向に回し過ぎると、アジャスターからネジが外れてしまいます。
カンチブレーキの調整方法③「片当たり」
ブレーキは本来、ブレーキを掛けた際に左右のアームが等しい稼働量で動き、それによって左右のブレーキシューが均一にリムと接触するように調整されています。
しかし、ブレーキ本体の精度の誤差や走行中の衝撃などによって、左右の可動域のバランスが崩れ、ブレーキシューがリムと均一に接触しなくなることがあります。
この状態を「片当たり」といい、カンチブレーキでもこの「片当たり」が発生します。
「片当たり」が起きた時、調整方法に用いる物は、プラスドライバーです。
まず、左右どちらのブレーキアームがリムに近づいているのかを確認します。
確認出来たら、左右のブレーキアームの位置を、ブレーキアームの側面にあるネジによって調整します。
具体的には、ネジの奥にはスプリングが仕込んであるので、ネジを時計回りに締め込むとスプリングの力が強まりブレーキアームは外側へ、ネジを反時計回りに緩めるとスプリングの力が弱まりブレーキアームは内側へ動きます。
この調整を行うとき、左右のネジの締め込み度合い、つまりスプリングの強さがなるべく均一になるよう調整を行ってください。
カンチブレーキの調整④「音鳴り」
「音鳴り」とは、ブレーキから様々な異音がする状態を指します。
「様々な音」と書いた通り、音の原因には様々なものが挙げられます。
いくつか代表的な音鳴りの原因と、その調整方法をご紹介します。
まずは、先ほど少しご紹介した、ブレーキシューがすり減っている状態です。
この状態のとき、ブレーキシューのゴム部分の台座である金属部分とリムがこすれ、異音が起こります。
そうすると、ブレーキシューの交換が必要であり、具体的な方法は後にご紹介します。
次に、ブレーキシューに異物が噛み込んでしまっている場合です。
小石やガラス片などの異物をタイヤが巻き上げブレーキシューに噛み込み、その異物とリムがこすれて異音が発生するのです。
この場合、カンチブレーキの左ブレーキアームにあるタイコを外してブレーキを開放し、ラジオペンチなどで異物を取り除きます。
また、ブレーキシューとリムとの相性の良し悪しによっても、異音が発生する場合があります。
この場合は、自転車の進行方向に対してブレーキシューの後ろ側をやや「ハ」の字に開くセッティング、いわゆる「トーイン」という形にすることで、音が収まる場合があります。
カンチブレーキのブレーキシューを交換する方法
カンチブレーキのブレーキシュー交換は、やや複雑な作業です。
最初は、時間と手間が掛かることを前提に行ったほうが良いでしょう。
また、不慣れな方はプロショップに任せることをお勧めします。
まず、カンチブレーキの左ブレーキアームにあるタイコを外し、ブレーキを開放します。
そして、カンチブレーキのブレーキシュー、並びにブレーキシュー台座を固定するナットを緩めます。
ナットを緩めると、棒状の金属にゴム部分の付いた、カンチブレーキ用のブレーキシューが外せます。
古いブレーキシューを外した後、新しいブレーキシューを取り付けます。
この時、ブレーキシュー台座からブレーキゴム部分までの金属棒の長さ、いわゆる「突き出し量」が、左右で等しくなるように注意して取り付けてください。
そして、先ほど調整方法をご紹介した、ブレーキシューの位置調整を行います。
最後に、ワイヤーのタイコをもとの通り、左ブレーキアームに引っ掛け、ブレーキシューの交換は完了です。
左右のブレーキアームの稼働量が均一でない場合は、片当たり調整として先にご紹介したように、スプリングの強さをネジの締め込み具合で調整してください。
少しクセのあるカンチブレーキ、特徴を知れば上手に使える!
ご紹介したように、カンチブレーキは少し扱いの難しいブレーキです。
メンテナンスに不安のある場合は、他のブレーキの方がメリットが多いでしょう。
しかし、カンチブレーキはその特徴を理解した使い方をすれば、必ずしも不便なブレーキではありません。
万人に勧められるブレーキではありませんが、その特徴に魅力を感じた方は使ってみてはいかがでしょうか。