競輪選手の自転車が届かない?競輪選手にまつわるエピソード

日本で自転車の「プロ」と言ったら、多くの方が真っ先に出てくるのが「競輪選手」ではないでしょうか?

実際、日本全国にある競輪場で毎日のようにレースが開催され、プロ選手たちが勝負を繰り広げている訳ですが結構知られていない事も多いのです。

日本が生んだ自転車競技「競輪」にまつわる基本的な情報から会場に選手の自転車が届かない!?などと言ったエピソードも交えお話ししていきましょう。

競輪選手の使用している自転車をまずはご紹介

競輪選手ってどんな自転車に乗ってレースをしているのだろう。

自転車競技をあまり知らない多くの人が「ブレーキが無い自転車なんだよね?」「サドルが高くて足が届かないんじゃない?」と大体という話を耳にします。

競輪の自転車は「ピストレーサー」と呼ばれ、ブレーキや変速機、もちろんベルやライトも全て無い、トラック(バンク)走行に特化した自転車に乗ってレースをしています。

さらに固定ギアで駆動しており、後輪にリアのギアが固定されているのが大きな特徴です。

要するに、ホイールが回る分だけペダルも一緒に回ってしまい、空転させる事が出来ないという仕様となっています。

これもスピードに特化させ、パワーを100%伝えるためには非常に重要な事なのです。

その他、機材に関しては全て「NJS」の認定を受けた機材のみが使用可能となっています。

男子の競輪は、NJS認定を受けているメーカーのスチール製のフレームで体に合った規定のサイズを使用しています。

今では女子の競輪、「ガールズケイリン」もあり、ガールズケイリンに限ってはカーボン素材のフレームを使用しています。

その他、ホイール、タイヤ、クランクやハンドルも決まったメーカーの物を使用しています。

基本的に、機材を統一する事により素材等による有利不利や不正を無くし、能力や実力で勝負していく世界なのです。

競輪選手は自転車を自分の身体に合わせてフルオーダーしている!

さて、先程出て来たNJS認定を受けている自転車というのはどういう物なのかお話ししていきます。

まず、フレーム以外のパーツに関してはNJS製品も一般的に市販されており、選手達もそれを使用しています。

それでは、フレームに関してはどうでしょうか。

それは、フルオーダーで選手一人一人がビルダーと呼ばれるフレーム職人の方に、身体に合わせて頼むのが一般的となっています。(今回は男子競輪について見ていきます。)

フレームのメーカーに関して、NJSの認定を受けているメーカーは以下の通りです。

ブリヂストン/パナソニック/ケルビム/マキノ/カラビンカ/レバン

ナガサワ/ナンベイ/シマザキ/ラップ/エイメイ/ウメザワ/レベル

ヤナギサワ/ガンウェル/ジオラマ/シブラス/ヴォーグ/イリベ

キヨ・ミヤザワ/プロトン/ばらもん/オスカ/オオタキ/ストラトス

ジロ/ボンバー/プロシオン/プレスト/エンメ・イデア/リンセイ・ラボ/ヤマモト

実際にフレームメーカーはこれだけあるのです。

その中から選手は好みのメーカーやビルダーさんを選び、自分の身長、体重、脚質、パワー等に合わせて相談しながら1本1本フレームを製作してもらいます。

ビルダーさんが試合や練習等を見て一緒にフレームの設計をしたりもします。

使用出来る材質やパーツが決められている分、その中でも選手間でのこだわりなんかも存在するのです。

では、一般人には手が届かないような自転車なのでしょうか。

競輪選手と同じような自転車が欲しい!実は手が届かない訳じゃない

これまで、競輪に使用出来る自転車やパーツについてお話させて頂きました。

細部までフルオーダー、パーツも競輪に合わせた強度の高いもの…となると、一般人には中々手が届かないのではないか?と感じてしまうかと思います。

実際はどうなのでしょうか。

答えは、「一般人でも手に入る」です。

新品で競輪選手と同じようなフレームをオーダーしたい場合、上記のメーカーに問い合わせれば引き受けてくれるメーカーもあります。

「もあります。」というのは、プロ選手や競技者以外は作らない、というこだわりがあるメーカーも存在するためです。

新品で購入する場合はメーカーや販売店と相談になりますが、中古で手に入れる場合、競輪選手から譲ってもらうといった場合もあります。

落車等でフレームに少しだけ凹みが出来てしまった、というフレームは街乗りや練習で十分使用出来る状態であっても、試合ではもう使用出来なくなってしまうのです。

それをチャリティー形式などで売ったり、譲ったりする選手もいます。
そこで手に入れるという方法もあります。

中々難しいですが、有名S級選手の使っていたフレームなんかも手に入るチャンスがあるかもしれません。

あとは市販されているNJS認定のハンドルやサドル、ペダル等を組み合わせてきちんとした1台を作る事が可能です。

プロ仕様だからといって、全く手が届かないという物ではないのです。

競馬、競艇、オートレースなどのプロ選手と同じような機材は中々簡単に手に入るものではありませんが、比べて競輪の機材は意外と身近に手に入ってしまうのも魅力の一つではないでしょうか。

少し親近感が湧いてきませんか。

競輪の試合会場に選手はどのように自転車を持ち込んでいるのか

さて、ここまでプロの競輪選手の自転車についてお話させて頂きましたが、選手たちは競輪場にどのように機材を持ち込んでいるのでしょうか。

競輪は全国各地にある競輪場で開催され、毎日どこかしらの競輪場でレースが行われています。

選手は、「あっせん」という形で元締めである「JKA」から「何月何日、ここの会場のレースに出場してください。」という通知が来ます。

それを了承し、現地に出向きレースをします。

全国各地に行かなければいけないため、毎回車で行けるような近場とは限りません。

そのため、遠方の会場等は自転車を専用のケースに入れて宅配便で会場に送り、自分は公共の交通機関を使用して移動します。

移動は開催初日の前日に会場に到着し、身体及び車体の検査を受けます。
そこで合格すると選手宿舎に入ります。

競輪開催中は八百長防止のため、選手全員がこの宿舎で隔離状態におかれます。

もちろん携帯電話、パソコン等の通信機器の持ち込みは禁止されており、すべて預けなければなりません。

12畳の部屋に4人ずつ割り振られる形で数日過ごします。

これだけ見ても、プロのハードさが伺えますね。

基本的に試合開催の前日に、自転車を組み立て、検査を受けたりしなければ翌日のレースに参加出来ません。
しかし、過去に宅配便で送った自転車が検査までに届かないといった大問題が発生した事例があるのです。

競輪場に自転車が届かない?大問題となったエピソード

先程もお話ししたように、会場から遠い競輪選手は宅配業者に自転車を運搬してもらう事が多いのですが、年に数回自転車が前日の点検に届かないといった事があります。

届かない場合はどうなってしまうのでしょう。

前日の点検までに間に合わない場合は、検査不合格扱いとなり、当レースの契約を解除されてしまいます。
宅配業者側の問題であっても、選手への欠場のペナルティーもあり良い事は何一つ無いのです。

1レースに対して1人が自転車が届かないと言うのはたまにある事のようですが、2013年に競輪において最大規模の自転車が届かない出来事がありました。

福島県のいわき平競輪場にて開催された、S級シリーズ出場予定選手のうち、なんと6選手の自転車が届かないという事件が発生してしまったのです。

大体一つのレース開催で約80〜160人の選手が参加しますが、6人もの選手の自転車が届かないといった事例はありませんでした。

このレースを走る事が出来なかった選手は、G1と呼ばれるグレードの高いレースへの出場権にも関わるレースだったため、さらに大きな問題となってしまったのです。

自転車が届かなかった選手の中には、法的な措置も検討したいというコメントを発表した選手もいました。

失格となった場合、賞金が出ずペナルティーが課せられます。
そうともなると1戦1戦で生活をしている競輪選手にとっては死活問題となってしまうのです。

自転車が届かない場合の他にも競輪には様々なペナルティーがある

競輪は公営ギャンブルという国が公認している競技なので、競輪選手には守るべきルールが厳格に決められています。

全てを書くと相当な量になるため割愛しますが、選手は競技中の走り方やもちろん競技前の検査不合格などで警告や違反が短期間に多く警告を繰り返すと違反点数というものが累積されます。

例えるならば運転免許のようなシステムです。

まず一定累積違反点数が90点以上に達した場合は、日本競輪選手会から訓練への参加通知が届き「特別指導訓練」に参加しなければなりません。

実施場所は、静岡の日本サイクルスポーツセンター(日本競輪学校の隣)で5泊6日行われ、自腹で受講費6万円を支払いその訓練に強制参加が義務づけられます。

その際には試合中と同様に携帯電話、パソコン等の通信機器は持ち込み不可となり、飲酒も厳禁で決められた時間や範囲以外の外出も禁止となります。

また、直近4ヶ月間の累積違反点数が120点以上になると、「あっせんしない処置」という処罰の対象となる場合があります。

この処置が適用となった場合、基本的に120点以上で1ヶ月、150点以上で2ヶ月、180点以上で3ヶ月といった間出場のあっせんがされなくなり、一定期間実戦から遠ざかる事となります。

さらにこれ以上に厳しい措置で「あっせん停止」があります。

こちらは、ドーピング違反や私生活において逮捕される等特に悪質な行為に及んだ場合の厳罰となります。

最長でも1年あっせんされず、停止期間が過ぎた後もKEIRINグランプリ等の特別競輪への参加などの権利が一定期間取り消されます。

こういった自転車が届かない場合以外にも厳格にルールが決められており、それに準じて競輪選手は日々レースに出場しているのです。

競輪選手は厳しくも夢のある職業です。

ここまで競輪選手にまつわる厳しい面も含めお話ししてきましたが、それに見合った夢のある事も多いのです。

まず金銭面で、トップクラスの選手は数千万円から億単位で年間賞金を稼げたり、競輪以外にも自転車競技で日本代表になる選手もいたりと自分の努力次第でどんどんステップアップできる職業です。

選手たちはこうして、日々厳しい練習をしながら試合に出場し賞金で生活しています。

自転車が届かない事だったり、怪我で走れなかったりというトラブルも乗り越えて、日本のプロ選手たちは今日も日本の各地で熱戦を繰り広げているのです。

人間対人間、迫力のある競輪を一度生で観戦してみてはいかがでしょうか?